ミセスローゼンの道後日記

小さき小さきセロのやうなる朴落葉



上海音楽院を卒業した青年がニックにチェロを学びにやって来た。NYマネージャーを通じて連絡をくれた。いつでもいらっしゃいとニックが返信すると、早速その週末に来た。中国名なので女性か男性かもわからなかったが、チェロを担いだ青年が大月駅前で手を振ってたので間違いようがなかった。我が家へ来る生徒さんは、大抵コンクールやオーディションを前に一回か二回レッスンを受け、ニックの推薦状を手に入れたらそれっきり、落ちたとも受かったとも、嬉しいとも悔しいとも、何の報告もなし、プツンと縁が切れる。どうせまたニックが寂しい思いをするのだろうなあ、と想定の上迎えたのだが、彼は違った。プロフェッサー、私はあなたのレッスンを受けるために日本に来ました。語学学校の生徒になりました。東京にしばらく滞在できますので、出来る限り頻繁に山中湖に通って学びたいのです、と彼は言った。無伴奏バッハとシューマンコンチェルトをうまく弾いた彼に、ニックは相当厳しいレッスンをした。マスタークラスでは、すぐ直せて効果が大な事から教え、45分で着実に成長を実感させ自信たっぷりにさせて終わるのが普通だが、このレッスンは全く違った。君は素晴らしいチェリストだが、まだまだ上手くなる余地が無限にある。バッハとは、シューマンとは、フレージングとは、ボーイングとは、フィンガリングとは、ビブラートとは、スライドとは‥‥‥と続き、終わってみればそれはピアティゴルスキーのチェロとは、ニックのチェロとは、というオリエンテーションになっていた。これをマスターしたいかどうか、彼に問うたのである。レッスン後、他の生徒と同じようにホットドッグランチを食べさせ、カザルス指揮ピアティゴルスキーのシューマンコンチェルトを一緒に見た。帰りしなに彼は、来週末も来ていいですか? 月曜から金曜は日本語学校に行かねばならないのです、と言った。ハオジェ君の日本(エキサイティングチェロ)生活が、今始まったのだ。
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