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ミセスローゼンの上人坂日記

雪の果つひに六番プレリュード

また雪が降り出した。高校生の生徒がバッハの六番プレリュードを弾いている。遂に大人になるのだ、という感慨がある。チェリストの元服である。

「オーディションやコンペティションを目指すなら、六番プレリュードはマスト。四番、五番をまだ仕上げてなくても、六番プレリュードが弾ける事を見せれば十分なのだ。チェロのテクニックの難易度で言うと六番プレリュードはあそこ、その他の組曲はここ。」と、ニックは天と地を指差した。

「ピアティゴルスキー先生が、若いうちに六番を習得するよう僕らを励ました、いや厳しく強制した。どれほど練習してもOKが出なかった。しかし一度物にすれば、どのコンペティションにも六番を弾いて勝つ事が出来た。ロカテッリ・ソナタの華麗なアップボウ・スタカートを見せられるより、むしろ六番プレリュードを見事に弾き切るチェリストに感動する、僕が審査員ならば。」

ニックが78年のチャイコフスキー国際コンクールに六番プレリュードを弾いた時、これと同じ感想を言ってくれたのが、あのダニール・シャフランだったそうだ。




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