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どんな言葉を贈ればよいか、すぐには思い浮かばない。
3月1日─今日は卒業式。孫娘は3年間の高校生活を終え、
新たな世界に旅立った。
空いっぱいの春の陽が孫娘をぐいと抱きしめ、
物言わず祝ってくれている。
僕は「おめでとう」の一言だけを贈る。
もう少し、気の利いた言葉が出てこないものか。
本当に不器用な──。心の中で苦笑いする。
2月に18歳になったばかり。
胸にティファニーのハート型のネックレスが揺れている。
その誕生祝いとしてプレゼントしたものだ。
「ありがとう」嬉しさの笑顔をこちらに向ける。
そばにいる母、つまり僕の二女も同じように「ありがとう」と添える。
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「ものすごく痛いぞ」そう脅せば、
「本当なの?」と母親に尋ねている。
「そんなことはないわよ。ただ、穴を開ける時、
バーンという大きな音がしたわね」
何のことかと言えば、孫娘がピアスをするのだそうだ。
卒業式を終えたら、美容室かどこかへ
まっしぐらに向かうという。
「高校を出たばかりの18歳の小娘がけしからん。そんなこと許さん!」
昔だったら、そう言ったに違いない。
実際、2人の娘はピアスなんてことはもちろん、
娘たちにすればうんざりするほど門限を厳しくした。
30年も前の話だ。
今、母親となった二女は、高校を卒業したばかりの自分の娘が
ピアスをすることに何の抵抗感も見せない。
もう時代が違う。
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「ものすごく痛いぞ」笑いながら脅してみせた、
この一言が孫娘へ贈った祝いの言葉だった。
4月からは大学生。選挙権を持つ、もう大人なのだ。