Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

デビュー

2021年03月24日 17時00分00秒 | エッセイ

     デビューと言っても、
     華やかな世界に踏み出したわけではない。
     むしろ、多少うっとうしく、面倒臭くもある。
     だが、今の世の中、うっとうしくとも、面倒臭くとも、
     そこから逃れるのは難しい。
     そんな仕組みが日一日と強化されている。
     そして、
     「さあさあ、お早く新たな世界へ踏み出してください」
     商魂たくましく、うるさいほどに催促する。
     抵抗むなしく、ついに負けた。
     長年いとしおしく付き合ってくれたガラケーは
     廃棄処分となり、やれやれのスマホデビューである。



     そもそも携帯電話に多くを望んではいない。
     通話、それにちょっとばかりのメール、
     もう少し欲を出せば、
     カメラとウオーキングをする際の歩数計、
     これだけの機能があればよい。
     何だか蔑まれたようにも聞こえるガラケー、
     これで不自由ないのだ。
     そう自分に言い聞かせ、納得させてきた。

     だが、技術の進歩は我々高齢者には思い及びもしない
     新たな、多くの機能を持つスマートフォンを生み出し、
     ガラケーを駆逐していき、なお戦線を拡大し続けている。
     加えて、菅総理が就任早々、
     世界各国に大きく取り残されている
     日本のデジタル化に国挙げて取り組むことを宣言し、
     一方で携帯電話料金の引き下げを大手各社に促した。
     その結果、猛烈とも言える料金引き下げによる
     顧客獲得競争が起きている。
     その最大の標的となっているのが、
     ガラケー族の僕たち高齢者。
     「スマホデビュー」なぞと、小賢しい言い方までして
     スマホへと誘い込む。
     あの手この手の催促メールはひっきりなしだ。

       

     その手に乗るかと意地を張ってみても、
     世の中はそれを許してくれない。
     ガラケーでは無理でもスマホだとすんなり通る
     便利さばかりの世の中になっているとあれば……
     デビューもやむなしか。
     そんな心境で白旗掲げ、現実と向き合った。 

     しかし、契約手続するだけでも面倒臭い。
     2時間半ほどもかかった。問題は操作法だ。
     画面にはたくさんの絵図が並んでいる。
     何が何やら、僕ら高齢者が簡単に覚えられるはずもない。
     デビューしたての人相手の
     「スマホ教室」に通うしかあるまい。

     河島英五が「似合わぬことは無理をせず」と歌っていた。
     「そうだよな」と相槌を打てば、
     「それは『時代遅れ』という歌ですよ」と返された。