Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

バブリーダンス

2021年03月23日 07時38分53秒 | エッセイ

      あの頃、男も女も肩をいからせ粋がっていた。
      大きな肩パッドを入れたジャケットを着て、
      左右に直線となってピンと張った両肩を揺らして闊歩した。
      1980年代中盤から1990年代初頭の、
      あのバブル期、男も女もそんな格好で、
      今風に言えばイきりたがり、
      強がって見せたがった。

          

      何せ、日本は高度経済成長の絶頂期。
      世界からは「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と持ち上げられ、
      国民は「一億総中流」の豊かさを享受した。
      バブル景気で消費に浮かれたバブリーな時代。
      また1986年には「男女雇用機会均等法」が施行され、
      女性の社会進出を促し、女性もジャケットを着るようになった。
      そして、バブリーダンスに興じた。
      そんな時代を象徴した肩パッド入りジャケット。
      誰もが肩をいからせ、いかにも強そうに見せたのである。


      だが、それは熟し切った柿がポトリと
      落ちる寸前のありさまみたいなもの。
      実際にバブル経済は弾け、日本経済は
      「失われた20年」の暗黒時代へ。
      浮かれ興じた若者は、「男女雇用機会均等法」とは言っても
      企業の採用控えに直面し、就職氷河期に身を震わせた。
      時代とともに、あの肩パッド入りジャケットも
      次第に姿を消した。

           
      
      日本は、あの「失われた20年」の痛手から
      いまだに立ち直れずにいる。
      加えてコロナウイルス禍である。
      それなのに日経平均株価は3万円の高値を前後し、
      あのバブル期を連想させる。
      一部には肩パッド入りジャケットが再流行の兆しを見せ、
      若い女性が思い出したようにバブリーダンスを踊っている。

      クローゼットの中には、あの頃の夢を忘れきれぬように
      肩をいからせたジャケットが2着下がったままだ。
      未練がましく。
      もう、2度と出番はあるまいに。