あの頃、男も女も肩をいからせ粋がっていた。
大きな肩パッドを入れたジャケットを着て、
左右に直線となってピンと張った両肩を揺らして闊歩した。
1980年代中盤から1990年代初頭の、
あのバブル期、男も女もそんな格好で、
今風に言えばイきりたがり、
強がって見せたがった。
何せ、日本は高度経済成長の絶頂期。
世界からは「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と持ち上げられ、
国民は「一億総中流」の豊かさを享受した。
バブル景気で消費に浮かれたバブリーな時代。
また1986年には「男女雇用機会均等法」が施行され、
女性の社会進出を促し、女性もジャケットを着るようになった。
そして、バブリーダンスに興じた。
そんな時代を象徴した肩パッド入りジャケット。
誰もが肩をいからせ、いかにも強そうに見せたのである。
だが、それは熟し切った柿がポトリと
落ちる寸前のありさまみたいなもの。
実際にバブル経済は弾け、日本経済は
「失われた20年」の暗黒時代へ。
浮かれ興じた若者は、「男女雇用機会均等法」とは言っても
企業の採用控えに直面し、就職氷河期に身を震わせた。
時代とともに、あの肩パッド入りジャケットも
次第に姿を消した。
日本は、あの「失われた20年」の痛手から
いまだに立ち直れずにいる。
加えてコロナウイルス禍である。
それなのに日経平均株価は3万円の高値を前後し、
あのバブル期を連想させる。
一部には肩パッド入りジャケットが再流行の兆しを見せ、
若い女性が思い出したようにバブリーダンスを踊っている。
クローゼットの中には、あの頃の夢を忘れきれぬように
肩をいからせたジャケットが2着下がったままだ。
未練がましく。
もう、2度と出番はあるまいに。