Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

妻の仕返し

2021年03月16日 09時22分38秒 | エッセイ
     その昔。ごく普通の家庭において亭主は
     絶対的存在として君臨した。
     「このように、お前たちが何不自由なく暮らせるのは、
     俺が懸命に働いてやっているからだ。ありがたく思え」
     こう言えば、妻も子供たちも
     「はい、お陰様で……ありがとうございます」と、
     胸のうちでベロをしながら従った。

                   
    
     その昔と言っても、現在でもそのような
     家庭は結構多いはずだ。
     特に中年以降の男性は
     「仕事優先。家庭は二の次」思考になりやすく、
     たまの休日も、やれゴルフだ何だと言って
     家事には見向きもしない。
     そうやって年月を重ねていくと奥方にとっては、
     亭主は金を運んできてくれる存在でしかなくなっていく。
     むしろ、家では何もしないくせに、何だかだと偉そうな
     モラハラ亭主に不満を募らせていく。
     不満をため込んでいく。

       そんな世の亭主族は用心したがよい。
     強烈な仕返しが待っている。
     定年──これは亭主はもう金を運んではこない
     ことを意味するわけで、
     まさに「金の切れ目が縁の切れ目」とばかり、
     いきなり離婚を突き付けられる。
     よく言う定年離婚だ。
     長年にわたり不満を貯めこんできた奥方にとり、
     金を運んでこない亭主には何の存在価値もない。
     「もう我慢しないわ」とばかり一気に
     攻勢に出てくるのだ。
     攻撃することしか能のなかった亭主は、
     守りはからっきしで、オロオロするばかり。

          
     
     もっと壮絶な仕返しは、亭主の健康寿命が尽きるのを
     待っている奥方である。
     ベッドに横たわる亭主の枕元で、こうつぶやく。
     「これからは私がいじめ抜いてやる」
     ああ怖い、怖い。

     ここまでのことではなくとも、やれ「掃除機をかけろ」
     「風呂掃除をしろ」などと命令されることになる。
     知人が定年になったので、ご機嫌伺いの電話をしたら
     「妻の部下になっております」と言うので大笑いした。
     これくらいの仕返しは「よし」としておかねばならない。