【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ちくわぶ

2013-03-15 18:57:36 | Weblog

 たしか私が食べたことがない、と言ったのがきっかけで開催されたNifty時代のおでんオフ会で、私は初めてちくわぶというものを食べて驚きました。なんだこれは、と。今は慣れて自宅でもふつうに食べていますけれど。

【ただいま読書中】『とことんおでん紀行』新井由己 著、 凱風社、1999年、1800円(税別)

 「おでん」と言ったら、誰の頭にも「あれ」というイメージが湧くはずです。しかし、万人の頭に浮かぶ「おでん」が同じ物とは限りません。日本各地には様々なおでんが存在しているのですから。著者は新聞配達用の原付バイク(カブのこと?)で野宿をしたりライダー用の安宿に泊まりながら日本をじりじりと縦断し、さらには韓国・台湾にもでかけて「おでん」を探っていきます。調査地点232、おでんを食べた店は71軒(デパートなどの総菜売場は除く)、メーカーに飛込みで次々工場見学をさせてもらう、結局106日間の旅で103回おでんを食する、という“労作”です。
 出発点は北海道。早速私は目新しいものに出くわします。おでん種として「マフラー」があるのです。大きな揚げかまぼこ(テンプラ)ですが著者は話だけでなかなか実物にはお目にかかれません。北海道らしいのはツブ貝のおでん。
 大間で、北海道で「テンプラ」と呼ばれていた揚げかまぼこが「さつま揚げ」に名前を変えました。ツブ貝も入りますが、北海道ではむき身なのがこちらでは殻つきです。青森では生姜味噌がかかります。三陸にはおでん種の有名メーカーがいくつもありますが、そこで作る変わり種(たとえば餃子巻き(ウインナ巻きのような感じで餃子が丸ごと巻き込まれているのだそうです。私はまだ未経験)はある特定の地域向けで地元ではあまり知られていなかったりします。
 東北は「おでん」というよりは「田楽」の食文化圏のようです。田楽には豆腐やコンニャクが使われますが、コンニャクの色が福島以外では「黒」だったのが福島に入った瞬間「白」に変わったのが印象的です。
 水戸までおりてくると「すじ(はんぺんの製造過程で出た鮫の軟骨や中落ちの身を成型してゆであげたもの)」が登場します。あら、これは知りません。著者はメーカーを訪れ、できたてのはんぺんの美味しさにほっぺたが落ちる思いをします。わあ、うらやましいぞ。
 東京では「江戸おでんの衰退」に著者は出会います。かつては「地産地消」だったのが流通の発達で江戸かまぼこメーカー(かまぼことはんぺんが主力商品。かまぼこ材料の二番肉で白竹輪、はんぺんに使えない部分で「すじ」、が「伝統の味」)が数を減らしているのだそうです。江戸後期に生まれた「煮込みおでん」が関西に移り「関東煮」と呼ばれるようになり、関東大震災を機会に東京に逆戻りをしていたのですが、昭和初めに薄味のスープの「東京おでん」を「一平」が始めた、という「歴史」を東京おでんは持っています。一口に「おでん」と言っても、なかなか複雑なものです……というか、日本料理でおでんはどこに分類されるのでしょう? 煮物? 鍋物?
 静岡には「静岡おでん」があります。味噌だれで豚や牛のモツも入りますが地域によって差はあります。焼津発の「黒はんぺん(イワシのすり身にデンプンを加えて半月状にして蒸したもの)」も入ります。浜松では味噌だれの壺がおでん鍋の中に入って温められていました。豆味噌文化圏に近づくにつれて、味噌だれはどんどん美味しくなっていくそうです。
 関ヶ原を西に越えると、ローソンのおでんコーナーから味噌だれが姿を消します。ただ紀伊半島では、好みに応じて味噌だれをかける人もいるそうです。
 京都では、京野菜や湯葉もメニューにありました。筍や蛸も美味しそうです。四国ではからし味噌が著者を待ち受けます。姫路では生姜醤油。
 韓国の「オデン」屋台では、なぜか鯛焼きも一緒に売っているところが多いそうです。鯛焼きの食感は日本のより柔らかいそうです。
 九州では餃子巻き、長崎のオランダ揚げ(北海道のマフラー揚げのもと)……なんて食べ歩いていたら、あらあら大晦日ですよ。それでも著者はそのまま「おでん紀行」を続けます。鹿児島からフェリーで沖縄へ。というか、那覇市で知人にバイクを預けて著者はそのまま台湾行きの船に乗ってしまいます。台湾のおでん(黒輪)には、甘辛ケチャップ(ケチャップに砂糖や唐辛子を加えた物)をかけます。沖縄のおでんには「ティビチ(豚足)」が入っていました。また、だし汁で少し煮た青菜が添えられます。私がふだん食べるおでんだと野菜が淋しいので、この沖縄流は真似したくなりました。
 日本中どこに行っても「コンビニのおでん」があり、スーパーやデパートでは「紀文のオデンだね」を売っていても、それでも「各地のおでん」がきちんと生きている、これは驚きでした。さすがに私は「おでんに恋している状態」ではないので、全国食べ歩きまではしようと思いませんが、わが家のおでんをもう少し面白くするヒントはもらえたような気がします。