【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

人間の分類

2013-03-19 07:03:34 | Weblog

 血液型性格分類のように面白いものではありませんが、ユングも人間の性向を「4つ」に分類しました。「論理」「感情」「感覚」「直感」。ただ、ユングはあまりに人間の「良い面」だけを見ようとしているのではないか、とも私には思えます。それ以外にもたとえば「思い込み」「妄想」「固着」「反発」なんてネガティブな世界のものを「自分の行動の基本原理」として動いている人がいません?

【ただいま読書中】『高い城の男』フィリップ・K・ディック 著、 浅倉久志 訳、 早川書房(ハヤカワ文庫SF568)、1984年、480円

 もう一つの1962年、第二次世界大戦が枢軸側の勝利で終わった世界。USAはいくつかの連邦に分割され、日本は太平洋岸連邦を掌握していました。ナチスドイツは、ユダヤに次いでスラヴ民族も“どこか”に追いやり、ついでアフリカ大陸の“浄化”に手をつけていましたがそこで事態がこじれ、人々の目をトラブルから逸らすために火星開発計画を打ち上げています。北米西海岸の人々は、強制収容所がない“幸運”を喜びながら日本人と共存し、「易」に頼って生きています。そして、「もしもローズヴェルト大統領が暗殺されていなければ、第二次世界大戦は連合国側の勝利になっただろう」という“歴史改変SF小説”が登場。これがベストセラーになって、ドイツ人は激怒しますが日本人は大喜びで読んでいる、というのが笑えます。そしてその著者は、人里離れたところにある武装した砦「高い城」に住んでいるという噂です。
 ドイツの最高指導者ボルマンが死に、その後継争いが世界中に大きな影響を与えます。人々はみな、この政変によって自分たちがどのような損得を受けるのか憶測をしますが、そういった個人的な思惑とは別に、もっと大きなもの(ドイツが企んでいた日本に対する「タンポポ作戦」)がどのように実行されるか、という問題が絡んでいたのです。
 ディックの作品で「現実」はまるで鏡越しに見つめる「現実のような非現実のようなもの」として扱われることが多く、主人公は可哀想なくらい混乱させられるのですが、本書では明らかに「現実」は確実に「現実が改変されたもの」です。で、“ふつう”の「改変もの」として読もうとすると、そこでディックらしい仕掛け、「枢軸側が敗北した世界を扱った文学作品」が登場してこちらの頭を混乱させてくれます。読者は、下手すると「自分が生きているこの世界もまた、どこかで改変されたのだろうか」という疑いを持つことが可能になってしまうのです。まったく、著者は迷惑な仕掛けをしてくれるものです。まあ、こちらは作品世界を複雑に楽しむことができるからよいのですが。