【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

2万の悲劇

2020-02-01 07:18:32 | Weblog

 日本では一時期自殺者が年間3万人だったのが、最近減ってきて、昨年は1万9959人だった、と報じられていました。これで「減った減った」「よかったよかった」と喜んでいる人は、2万も悲劇が生じていることの重みを感じられないのでしょうか?

【ただいま読書中】『自殺の歴史』ロミ 著、 土屋和之 訳、 国書刊行会、2018年、4200円(税別)

 本書はデュルケムの「自殺は社会を構成する要素全体の標準的構成要素の一つである」という言葉から始まります。「人類の歴史は○○の歴史である」とよく言われますが、「○○」に「自殺」も入るのだそうです。どの文明文化民族でも自殺はつきものです(例外的なのはヘブライ人で、4000年で自殺の記録は10件しかないのだそうです。……えっと、ヘブライ人ってユダヤ人とほぼ同義でしたよね。するとユダを除けば9件?)。古代ローマ時代、ガリア人の軍人では自殺は「義務」でした(『ガリア戦記』(ユリウス・カエサル)にその例が紹介されています)。20世紀の日本帝国軍人と同じですね。
 有名な自殺を列挙するだけで本1冊分になってしまいます。それも分厚い本に。本書は500ページ近い厚さですが、もちろん例の列挙で終わる本ではありません。
 初期キリスト教は、神秘主義的で生を悪とみなしていたため自殺は容認されていました。しかし教会が統制を強めると「自殺は悪」とされます。中世には自殺を非難するばかりか、自殺した人の死体を損壊して罰しました。
 歴史上の自殺には有名で伝説となったものもありますし、忘れ去られたものもあります。
 自殺のテクニックも様々です。
 自殺の動機もまた様々。
 自殺を何か実用的な利益のために用いようとする人もいます。他人の自殺を自分の商売に利用しようとしたり、狂言自殺で自分の主張を通そうとしたり、すごいのは「自殺の出し物(演技ではなくて本当に自殺をする出し物)」。ちなみにこの変わった芸人ジョゼフ・デュランは、首を実際に吊ったまま13日間生きていたそうです(もちろんネタはあるのですが、それでも危険な“芸"であることには違いありません)。
 文学や小唄などでも自殺は大きく扱われています。
 自殺への救済策も本書では扱われています。各国で様々な対応がされていますが、なかなか難しいもののようです。私自身は、本当に自殺したい人を止める気はないのですが、たとえばうつ病で自殺したいのだったらまずうつ病の治療をした方がよいだろう、とか、お金がないから自殺したいのだったらお金の算段がなんとかならないか(自殺以外の方法での「解決」がないか)探りたい、と思っています。自殺は「自分を殺す」ことですが、それは同時に「回りの人間たちの一部も殺す」ことのような気がするものですから。