「むだ毛」はあるけれど「無駄じゃない毛」って、どんな毛でしょう?
「逆まつげ」があるのなら「逆鼻毛」もあるのかな?
【ただいま読書中】『孤児たちの軍隊 ──ガニメデへの飛翔』ロバート・ブートナー 著、 月岡小穂 訳、 早川書房(ハヤカワ文庫SF1923)、2013年、940円(税別)
2037年、太陽系外から侵入したナメクジ型の異星人は、木星の衛星ガニメデに基地を構え、そこから地球を爆撃しました(爆弾ではなくて小惑星のような巨大質量の物体による攻撃で、世界各所で2000万人が死亡しました)。復讐のためのガニメデ派遣軍に志願した者は多数でしたが、採用されたのは、異星人の爆撃で家族を失った1万人の孤児たちだけでした。マスコミは彼らを「孤児たちの十字軍」と呼びます(イスラム教徒の孤児は「十字軍」を嫌って「人類最後の希望」と呼んでいましたが)。
不気味な形の異星人による突然の地球侵略、戦争で片腕を失った判事、主人公ジェイソンが選択するのは歩兵、と『宇宙の戦士』(ハインライン)へのオマージュで始まったかのような作品ですが、ここからがオリジナリティー炸裂です。初年兵訓練キャンプでおこなわれるのは(テレビシリーズ「バンド・オブ・ブラザーズ」や映画「フルメタル・ジャケット」で展開されたような)20世紀型の訓練なのです。ひたすら20世紀型の歩兵を目指しての訓練で、どうやって宇宙で異星人と戦わせるつもりなのでしょう?
異星人が欲しいのは、水と大気のある惑星。だから地球を破壊するのではなくて、人類が滅亡する程度の損害を与えるように、岩を地球に落とし続けます。気候は寒冷化、大気は塵に満ちてジェット機は飛べなくなっています(だからプロペラ輸送機C130が活躍する、というのには笑ってしまいますが)。
「20世紀の遺物」で活躍するのは、プロペラ機だけではありません。異星人が発射した爆弾を迎撃するのは、復元されたスペースシャトル(を改造したもの)、月に行くためにはアポロが復元されています。このままでは、木星系まで遠征するのは無理だぞ、と思ったら、非常時の馬鹿力、あっさり宇宙軍艦が開発されてしまいます。
いかにも21世紀のハイテクらしい新装備に身を固めた兵士たちが乗り込む降下艇は、ボーイング767の機体(アリゾナ砂漠に捨ててあったもの)にパラシュートをつけただけの“グライダー"です。谷甲州の「航空宇宙軍史シリーズ」の「タイタン航空隊」に「地球外では唯一の空軍」が登場しますが、本書はそれに次ぐ「二番目の地球外空軍」ですね。ただし本書はあくまで「歩兵の物語」なのですが。とりあえず「使えるものは何でも使う」のでしょう。そうしなければ負けてしまいますから。
「孤児たちの軍隊」とは軍の本質を突いた言葉なのだそうです。兵隊はみな孤児のように社会から切り離されて手段生活をしています。彼らが戦うのは、国とか社会とかを守るためではなくて、自分と自分の仲間たちを守るため。それが最初から孤児だけで構成された軍隊だと、その集団は一つの大きな家族のようになってしまいます。だからこの軍隊の兵士は、家族を守るために戦うのです。ただ、その「家族愛を示すための象徴的な行為」が「カミカゼ特攻」だというのには私はちょっと違和感を覚えます。西洋的な価値観からは自爆特攻は否定的に捉えられるものだという印象が自分にはあるものですから。
しかし、魅力的な登場人物が、本当にあっけなく次々死んでしまいます。それが戦場だ、ということなのでしょうが、こんなに殺してしまって、続編は一体どうなるんだ、と私はいらぬ心配をしてしまいます。