今回の「新型肺炎」での厚生労働省の後手後手の対応を見ると、以前の「新型インフルエンザ」のときにやった「水際作戦」の失敗から何も学んでいないように見えます。「自分たちは優秀だ」という自負があるから「学ぶ必要」はないのかもしれませんが、人間相手にいくら威張れても、ウイルス相手には通用しないのではないかな。
【ただいま読書中】『ロストフの14秒 ──日本vs.ベルギー 未来への教訓』NHKスペシャル取材班、NHK出版、2019年、1500円(税別)
2018年夏サッカー・ワールドカップ・ロシア大会、日本代表は一次リーグを突破して決勝トーナメントに臨みました。一回戦の相手はベルギー。場所はロストフアリーナ。日本が2点を先取するも、ベルギーが2対2の同点に追いつき後半のアディショナルタイムに突入。本田圭佑が左コーナーキックを蹴った瞬間からの14秒で、日本は失点、ぎりぎりまでベルギーチームを追い詰めていたはずなのに、敗戦となってしまったのです。
「史上最も美しいカウンター」と賞賛されるこのプレーは、なぜ生まれたのか、それは日本代表にとって何を意味しているのか、などを追究した本です。
14年ブラジルワールドカップ。日本は史上最強と思われるチームを送り込みましたが、惨敗。その時の悔しさを知っているベテランがロシア大会でも中心となっていて「おっさんジャパン」と揶揄されることもありました。実際にロシア大会直前のチーム状態はぼろぼろで、大会開幕の2箇月前にハリルホジッチ監督は解任。世界ランキングは61位に低迷していましたが、ベテランらしいしぶとさで一次リーグを突破していました。
対してベルギーは「赤い悪魔」と呼ばれる強豪で、当時世界ランキング3位。前評判は圧倒的にベルギーでした。ところが試合が始まると、前半はゼロ対ゼロ。それも一方的に攻めるベルギーに日本が耐え抜いた、ではなくて、ほぼ互角の展開だったのです。そして後半開始早々、日本は立て続けに2点を取ります。「このまま日本の勝利」と多くの人が思いました。そこでベルギーは、二人の選手交代、攻撃の選手を二人同時に投入して「攻撃するぞ」という姿勢を「形」でチーム全体に示します。対して日本は「攻撃(攻撃に夢中になるベルギーの裏をついて3点目をねらう)」か「守備(2点をがっちり守り抜く)」かで迷い、結局なんとなく「攻撃」を選択します。このとき試合を観戦していたリトバルスキーは日本チームの集中力が落ちていることを敏感に察知しています。そして、ふらふらとしたクロスボールがそのまま日本ゴールに入ってしまう「不運なゴール」が生じ、試合の流れは明確に変わります。日本選手の証言では「3点目を取りに行く姿勢に変わりはなかった」で一致していますが、ベルギーの選手たちは「日本は明らかに守備的になり、そのおかげでボールコントロールが楽になって、だから2点目が生まれた」と言っています。ベルギーチームには「この点差ならこう戦う」「点差が変わったら戦い方もこう変える」という明確な取り決めがありましたが、日本チームにはそのような「取り決め」がなかったのです。
さらに吉田選手は「過去にも大きな大会で同じようなこと(リードを守り切れずに逆転を食らったこと)が何回もある」と具体的に(「ワールドカップブラジル大会の初戦コートジボワール戦」「ロンドン五輪の準決勝メキシコ戦」)指摘しています。つまり日本チームは「過去の失敗」からきちんと学んでいなかったようなのです。
そして「運命の14秒」。コーナーキックを得た日本には二つの選択肢がありました。「ショートパスで時間稼ぎをして延長戦に持ち込む」「ゴール前に蹴り込んで得点を狙う」。チームが選択したのは後者。対してベルギーは、「得点を狙いに来る日本は選手がほとんど前に来ている。ならばその隙を突いての高速カウンターアタックを発動させよう」と準備をします。そして、本田が蹴ったボールがゴール前に届く前に飛び出したキーパーがボールを奪い、そこから(あるいはキーパーがボールをキャッチする寸前から)全員が連動してのカウンター攻撃が発動してしまいました。
ここでも重要な指摘があります。日本人選手は「がっかりすると一瞬動作が止まる」のです。一瞬視線を落としたりして1秒未満ですが動きが止まりそこで気持ちを切り替えて次の動きを始める傾向がありますが、その「時間の無駄」が致命傷を招くのです。野球でも、打撃でミスをして内野ゴロを打ってしまったら天を仰いで吠えたりバットを地面に叩きつけたりしてから走り出したら、守備がエラーをして、そこで全力疾走に切り替えたけれど結局野手がボールを拾って一塁に送球したためアウトになった(いらないことをせずに最初から全力疾走をしていたらセーフになっていた)なんてシーンを見るのは珍しいことではありません。「自分はがっかりしているんだ」と全身で表現しないと我慢できない人はたくさんいるようですが、そういったアピールは試合中ではなくて試合後にした方が良さそうです。
私にとって居心地が悪い話題は「意図的なファウル」。きれいなプレイをしてそれで敗戦するのと、イエローカードをもらってでも試合の流れを断ち切ってしまうのと、どちらを選択するか、という究極の場面で、日本文化で育った人間はついつい「きれいなプレイ」を選択してしまうのですが、それで良いのか?という話です。スポーツで人を傷つけるのは論外だし、技術がないから反則で勝負するも論外ですが、反則をしないという自己満足とチームの敗戦とが釣り合うのかと言えば、それは……ああ、私は口ごもってしまいます。