俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

成功体験

2010-12-07 16:00:54 | Weblog
 成功体験はしばしばその後の失敗の原因となる。
 アメリカは日本での占領政策の成功で誤った信念を持った。市民は戦勝国に服従してアメリカ式の民主主義を教えればそれを受け入れるものだと思い込み、その後も占領地で同じようなことをしてことごとく失敗した。
 日本は沖縄返還で誤った信念を持った。友好な関係が築ければ占領された領土は返して貰えるものだと思い込んだ。領土問題を政治課題と認識せず只管友好関係を強調し続けた結果、北方領土の返還は絶望的となった。最大限でも2島返還しかあり得ない。
 特殊な経験を普遍化するのは愚かなことだ。たまたまうまく行ってもそれが再現できるとは限らない。たまたまの僥倖に頼るのは守株と同レベルの愚考でしかない。
 「愚者は経験から学び賢者は歴史から学ぶ」と言ったのはビスマルクだが、一回限りの経験ではなく積み重ねられた歴史から学ぶことが必要だ。
 但したとえ歴史から学んでも偏った学び方は失敗を招く。インドシナ半島で日本軍は英国軍の背後を衝くことにこだわり過ぎて惨敗を重ねたそうだ。これは義経を真似た奇襲戦術が初めのうちは成功したためだ。奇襲戦術は1度だけなら相手の虚を衝いて大成功を収めることがあり得る。ところがそれに味を占めて何度も繰り返せばワンパターンになって相手に読まれてしまう。これを馬鹿の1つ覚えと言う。

必要条件

2010-12-07 15:47:01 | Weblog
 老後のためには金が必要だ、と言えばすぐに「金だけあっても幸せにはなれない」と反論したがる人がいる。こんな人は必要条件と十分条件の区別さえできないのだから中学の数学を勉強し直すべきだろう。
 十分条件を充たすことは難しい。人間の欲は限り無くかつ千差万別だからだ。何もかも充たされて初めて十分条件になるのだから、そんなに欲張らずに最低限必要なものの確保をまず心掛けるべきだろう。
 足るを知るとは必要最小限の状態に満足感を見出すことだろう。そして最低限必要なものとは健康と金だと思う。この2つが充たされても満足な老後を送れるとは限らないが、この2つのうちどちらかでも充たされなければ必ず不幸になる。従って老いへと向かう人はこの2つのことの充実を今のうちから準備しておくべきだろう。綺麗事を言っていられるほどには老後は短くない。
 間違えてはならないことは金は生きるための道具に過ぎないということだ。仕事に縛られる現役時代が不幸であるように、金に縛られる老後も不幸だ。人は金の支配者であるべきであり金の亡者になってはならない。
 どうせ金はあの世まで持って行くことはできないのだから貯めたり増やそうとすることに齷齪するよりも上手に使うことを心掛けるべきだろう。使う人は金の支配者であり得るが、振り回される人は金の奴隷になってしまいかねない。

自然崩壊

2010-12-07 15:29:49 | Weblog
 自然崩壊するのは放射性物質だけではない。有機物も自然崩壊する。一方、大半の無機物は自然崩壊せず安定しており、外部から物理的な力を受けて初めて崩壊する。この違いを見逃してはならない。
 有機物が崩壊するのは主にバクテリアが分解するからだが、宇宙空間でも光のエネルギーだけで容易に分解されてしまう。
 壊れ易い有機物で構成される生物は死後急速に崩壊するが死ぬ前はどうだろうか。実は生命体は死ぬよりもずっと以前から細胞が死に続けている。生命体が生きているのは新しい細胞が次々と作られているからであって、新しい細胞が作られなくなれば死に至る。まるで自転車操業のようだ。生物学の「赤の女王仮説」のように、生命を維持するためには走り続けねばならない。
 個体の持つ能力はどうだろうか。能力も劣化し続ける。動かなければ動けなくなるし、考えなければ考えられなくなる。無機物なら外からの刺激を排除すれば劣化を防げるが、生命体の性質は全く逆で外からの刺激が無くなれば急速に劣化する。
 瀕死の重傷を負えば驚異的に強くなるサイヤ人(「ドラゴンボール」参照)ほどではないが、動物には刺激を受ければそれを克服しようとする力を獲得する能力が備わっており、無闇にストレスを厭うべきではない。
 過保護こそ人間を劣化させる。「我に艱難辛苦を与えたまえ」と言った山中鹿介や「傷によって生気は増し力は増大する」と語ったニーチェが指摘したとおり人間は苦境を克服することによって劣化を免れることができる。微温湯に浸かっていれば劣化が促進される。