俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

知る責任

2015-10-25 11:25:15 | Weblog
 新しい法律や制度が作られる度に「分からないから悪い」という論法を使う人がいる。安保関連法にせよTPPにせよマイナンバー制度にせよ、国民が理解していないという理由で否定しようとする。分からないのは政府の責任だろうか。充分に報じないマスコミと碌に調べない国民こそ悪いのではないだろうか。
 安保関連法案のために国会は過去最長の95日間延長されたが、くだらない議論に終始して本質的な問題点は何も解明されなかった。国民に至っては、採決を巡る馬鹿騒ぎしか覚えていない。こんな国会を何百日延長しても審議は尽くされないし国民の理解も進まない。
 「分からない」ことは恥ずかしいことだ。分かるための努力をしていないからだ。憲法について尋ねられて「分からないのは学校や政府が悪いから」と答える人はいない。しかし安保関連法などを否定する人は大半がこれと同じ論法を使っている。分かるべきことを分かっていないのは怠慢が原因であり他人のせいにはできない。
 憲法が分からないのは政府や学校や憲法そのもののせいではなく自分の責任だ。同様に、安保関連法やTPPやマイナンバー制度が分からないのも己の責任だろう。
 言論統制のある国であれば政府が都合の悪い情報を隠蔽する。中国では「天安門事件」をネットで検索することさえできないそうだ。この場合、分からないのは中国共産党のせいだが、言論が自由である日本において、分からなければ自己の不勉強を咎めるべきであり、少なくとも政府のせいにはできない。
 旭化成建材の杭工事がどこで行われたかについて非常に中途半端な形で公表された。こんな中途半端な公表は却って疑心暗鬼を招くだけだ。これは「エボラ出血熱の患者が全国にいる」とだけ公表するようなものであって、不安を煽られた自治体も建設業者も振り回されている。不安を拡散させないためには早期に実名を公表することが必須だ。中途半端な公表は風評被害を生むだけだ。
 あるいは業界がグルになって誤った情報を発信していることもある。目に余るのは医薬品業界だ。有害な総合感冒薬によってどれほど儲けているのだろうか。それを批判しないし批判できないマスコミも悪い。国民がこのことを分からなくてもこれは国民のせいではない。最も悪いのは欲に目が眩んで報道を自粛しているマスコミだ。
 例外はあるが基本的には、分からないのは自分が悪い。言論が自由な日本では何でも自力で調べることができる。しかし困ったことには、自分が分かっていないということを分からない人がいる。こんな人は碌に調べもせずに誰かが言ったことをオウム返ししているだけだ。憲法の条文を自分で読まずに聞き齧りだけで良い・悪いと放言する人が余りにも多過ぎる。

メディアの責任

2015-10-25 10:45:22 | Weblog
 不良品を売った企業は徹底的に責任を問われる。旭化成建材であれエアバッグのタカタであれディーゼルエンジンのフォルクスワーゲンであれ、容赦なく追及される。そのダメージは大きく企業の存続が困難になることさえ少なくない。それと比べてマスコミは余りにも無責任ではないだろうか。
 かつてイレッサという抗癌剤が発売された時、マスコミは「副作用の無い夢の新薬」ともて囃した。それを鵜呑みにした患者の多くが副作用のために亡くなった。
 一時期、食品添加物が目の敵にされた時代があった。それを信じた人々は無添加の加工食品を買い求めて少なからぬ人が食中毒を患った。
 マスコミは発表されたことをしばしばそのまま垂れ流す。その発表内容が間違っていることが後で分かっても「そう発表したということは事実であり事実に基づいて報じただけだ」という逃げ口上を使って自らの責任を認めない。内容が事実かどうかを予め検証する義務は無いのだろうか?
 もしかつての豊田商事のような大規模な詐欺集団が「元本保証、年利1割」という金融商品を売り出した時にそのまま報じることは詐欺の共犯に該当するだろう。同様に、有害な薬をあたかも良薬のように報じたり、総合感冒薬の危険性について全く触れないことも詐欺の片棒を担ぐ行為ではないだろうか。
 マスコミは「言論の自由」という言葉を好んで使う。問題のある報道が批判されれば「言論弾圧だ」と抗議する。しかし自由であり得るのは自ら責任を負う場合に限定される。企業活動が自由であるのはその結果に対して責任を取るからだ。自由と責任は表裏一体であり、責任を取らない企業は犯罪集団として罰されるべきだろう。
 これまでに多数の誤報があったが、責任を取ったと思えるのは名誉毀損の裁判で負けた時ぐらいしか無いのではなかろうか。それ以外については責任逃れに成功している。
 一昨日(23日)朝日新聞が14日に報じた「トルマリンで殺菌するシャワーヘッド」の記事に疑問を挟んだが、お墨付きを与えた検査機関として名を挙げられた「東京顕微鏡院」が、朝日新聞よりも早く22日に自社のホームページで釈明した。「殺菌・滅菌効果の有無に関する評価には関与しておりません。」これを受けて朝日新聞デジタル版は24日に「水が電気分解される」という部分だけを取り消した。肝腎の「水を通せば殺菌」は取り消されていない。トルマリンによって「細菌を破壊する」という最も根本的な間違いについては頬かむりをして、科学的認識不足に問題を摩り替えようという魂胆なのだろうか。欠陥記事に対する危機意識は相変わらず低い。これ以上マスコミを甘やかすべきではなかろう。なお私が購読している名古屋本社版ではこの訂正記事は見当たらない。