俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

自然治癒力の限界

2016-02-07 10:43:14 | Weblog
 批判を続けている医療に頼ることになりそうだ。
 昨年末以来、嚥下障害がありビールやお茶などで流し込んでいたが一昨日(5日)から吐血を伴う嘔吐が始まり何も食べられなくなった。6日に胃腸科で検診を受けたところ食道に腫瘍と潰瘍が見つかり、これらが嚥下を困難にし潰瘍からの出血が吐血に繋がったと分かった。歯の治療と小学生の時の骨折以外、病気と怪我を総て自然治癒力だけで治して来たが今回は流石に無理だ。食べられなければ手の打ちようが無い。
 実は全く食べられなくなったことでホッとしている自分がいる。ようやく無理に食べるという苦痛から解放されたからだ。私は母と同居しており沢山食べさせることが愛情と母は信じ込んでいる。私が少食になると母は不機嫌になる。だから妥協して少なからず大目に食べていたがようやくこの苦行から解放された。独り暮らしであれば節食してこの腫瘍と仲良く付き合っていたのではないかと思う。しかしそれは腫瘍の肥大に繋がっていただろう。
 自然治癒力は2つの機能に分けられる。再生力と免疫力だ。再生力があるからこそ傷口は修復され、免疫力によって外部から侵入しようとする異物が退治される。強力な盾と矛があれば万全の体制の筈だが弱点があった。免疫力は内なる敵に弱い。病原体のような異物であれば免疫細胞の猛攻に晒されるが、腫瘍は異物ではなく自己の細胞の変異体だ。この変異が極端であれば異物と認知され得るだろうが多くの腫瘍は異物扱いされない。だから免疫力が充分に働かない。
 癌が難病であるのは自然治癒力の協力が充分に得られないからだろう。免疫力は癌を敵視しないから医療は単独で癌と戦わねばならない。戦力が半減すれば当然戦いは不利になる。
 抗生物質が体内の細菌を殺せば免疫力にとってこれほど心強い援軍は無い。一方エボラ出血熱のように抗ウィルス薬が全く無ければ、医療にできることは点滴だけだ。点滴によって体力を辛うじて維持して免疫力がウィルスに勝つことに期待するしかない。癌とは逆に免疫力だけが頼りだ。だから死亡率も高くなる。免疫力と医療は車の両輪であってこそ最高の力を発揮する。
 自然治癒力は医療よりも遥かに高いレベルの防疫力を持っているが自己の細胞の変異体を攻撃できないという大きな弱点を持っている。弱点を充分に理解してその弱点を補完することと共に、医療よりも遥かに頼りになる免疫力を高める方法の研究も今後の医療の重要な課題だろう。

平等の罠

2016-02-07 09:53:53 | Weblog
 最近、安倍首相が同一賃金同一労働を唱えるようになりこれがまるで労働条件の改善に繋がるかのように言われている。民主党が以前から主張していたことでもあり余り強く反対する勢力も無いようだ。しかしこれは危険な制度だ。
 2005年に西友を子会社化したアメリカ資本のウォルマートが採用した制度が同一労働同一賃金だった。そしてその実態は、正社員の雇用条件を非正規雇用労働者並みに落とすことだった。米資本の元での改革だったから余り問題にはならなかったがこれは酷い制度だ。
 鮮魚売場の販売員の賃金はパートタイム労働者の賃金に統一された。鮮魚の販売という同一業務を担当するからだ。しかし本当に同一業務だろうか。ベテランの販売員であれば目利きができるだろうし顧客の心の壺を押さえる接客技術など様々なノウハウも修得しているだろう。これを同一労働と見なすことは正当だろうか?
 日本の正社員は恵まれている。古き良き時代の慣行が残されている。基本思想は終身雇用だ。この制度の元では転職すれば不利になるから労働者側も生涯勤続することを考えて安定した長期的な関係が築かれる。
 労働者市場の活性化を唱える人はこれを人材の硬直化と非難して流動性を求める。確かに当初の選択を誤った人であれば流動的な雇用のほうが好ましいが、誤らなかった人にとっては硬直化が好ましい。だからこそ非正規雇用労働者は正社員を羨む。正社員という安定した地位は決して高い地位でなくても生涯に亘る充分な安全性が確保されている。
 失われた20年の間に企業は労働条件を改悪した。その中で辛うじて生き残ったのが現在の雇用慣行だ。同一労働同一賃金が国是とされたらどうなるか。流石にウォルマートのようなことはできないが、足して2で割ることなら許容されるだろう。つまり正社員の地位の低下と非正規雇用労働者の地位の向上の同時実現だ。経営者が企んでいるのは正社員の持つ権利の切り崩しであり従業員全員の使い捨て労働者化だ。
 ゆとり教育は学力の平準化を目指した。それによって低学力者のレベルは上がったが高学力者のレベルは下がり、全体のレベルは低下した。
 所得再分配とは高所得者の所得を低所得者に振り分けることだ。確かにこうすることによって平等にはなるが全体の所得は変わらない。長期的には勤労意欲の低下によって所得の減少を招く。
 私が最も恐れるのは、同一労働同一賃金という錦の御旗の元で平等化の嵐が吹き荒れて辛うじて生き残っていた古き良き日本型経営が息の根を止められてしまうことだ。同一労働同一賃金が狙っているのは実質的には正社員を非正規雇用労働者化することだ。