俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

鎮痛

2016-02-11 10:42:56 | Weblog
 自覚症状の無い病気もあるが、治療は基本的には様々な不快感の除去を意味する。たとえ根本原因を解決できなくても、不快感の除去さえできれば治療効果があったと判定できる。
 しかし除去することと感じなくさせることは全く違う。患者の主観においては同じであってもその意味は全く異なる。困ったことに大半の患者や医師がこの2つを混同している。
 血の付いた刃物を持った男が目の前に現れた場合、逃げるか武器を持つかを選ぶべきだろう。目を覆っても危機は去らない。
 赤信号に会えば止まらねばならない。目を閉じれば主観的には赤信号は存在しなくなるが交差する車は青信号に従う。主観世界に浸れば事故死の確率は極めて高くなる。
 迷彩服を着た兵士が藪に潜めば姿は殆んど見えなくなるが彼は確実にそこにいる。
 足を傷めた短距離走者が痛み止めを使えばそのレース中、痛みを忘れて走れる。しかし痛み止めの効果が切れれば激痛に苦しめられるし傷を悪化させて再起不能になるかも知れない。
 扱き使われて疲労困憊した人を最も元気にできる薬は覚醒剤だろう。しかしこの元気は贋物であり、仮に覚醒剤に中毒性が無くてもこんな薬に頼るべきではない。覚醒剤は特別なエネルギー源として働く訳ではなく脳が狂って疲労を感じなくなっているだけだ。
 痛みを感じるのは痛覚だが脳が狂って痛覚との連結を失ってしまえば痛くなくなる。痛みは解消された訳ではなく知覚できなくなっただけだ。
 医師は様々な鎮痛剤を処方する。しかしその殆んどが傷みを治す薬ではなく痛みを感じなくさせる薬だ。治療効果は全く無い。
 単なる鎮痛剤が役に立つのは手術や検査の時だけだろう。痛みを感じなくさせている間に本来なら痛みを伴う筈の作業を終える。麻酔薬が使われるようになるまでの外科手術は地獄の苦しみだったそうだ。
 後のことを考えなければ鎮痛剤も抗鬱剤も覚醒剤も同程度に有効だろう。未来を無視するならこんなその場凌ぎに頼っても良かろう。しかしその場凌ぎで誤魔化している間も病気は悪化し続ける。医師も患者も鎮痛剤で誤魔化すことを治療だと思い込んでいるが、これは治療ではなく一時的な麻痺に過ぎない。感じなくなっても存在するだけではなく悪化し続けている。

食道癌

2016-02-11 09:58:44 | Weblog
 食道癌の患者になってしまった。5大癌(胃、大腸、肝臓、肺、乳房)ではないため余りよく知らなかったが厄介な癌だ。1月19日に国立がん研究センターが発表した10年生存率は29.7%で低いほうから4番目だ。膵臓、肝臓、胆嚢胆道に次ぐ低さだ。他の癌がいかにも死亡率が高そうなものばかり並ぶ中で食道癌が4番目とは全く意外に感じる。恥ずかしい話だが食道癌と告知された時にはそんな重病だとは思わず、情報収集をして初めて愕然とした。
 食道癌の死亡率が高いのは長い臓器だかららしい。喉から胃に至る臓器だから、胸も腹も切開せねばならないそうだ。かつては術死率50%という恐ろしい手術だったらしいが今では約5%で、3か月死亡率は15%と言われている。その一方で術後1年以内に30~50%が亡くなっているという報告も多数ある。
 内視鏡手術のほうが随分生存率が高いらしいのでそれを希望したところ「そんなレベルではない」とあっさり否定された。仮にこれがレベルⅢという意味であれば5年生存率は26.6%、10年生存率は15.4%と更に低くなる。
 興味深いデータがある。食道癌の手術率は38.1%で肝臓癌(29.1%)と膵臓癌(35.0%)に次いで3番目に低い。明らかに危険な手術と思える2者に次いで低いのは、後遺症が大きくてQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の低下が著しいからだろう。
 食道癌で困るのは食べられなくなることだ。固形物は総て吐いてしまうから今月の6日以降6日間、流動食だけに頼っている。今のところ飲めるだけマシであり飲めなくなれば衰弱死に至る。この期に及んでも毎日プールで体を鍛えておりついでに体重を測っているが6日間で4㎏痩せた。
 私としては手術を回避して放射線治療に頼りたいと思っている。運良く手術が成功してもQOLは著しく低下するし余命も長くない。それなら多少短命になってもQOLを高く維持したほうが少しは生きることを満喫できるだろう。
 この辺りの判断は得意の確率論に基づく期待値を使って算出すべきところだろうが、データが余りにも乏しくて試算できない。そもそも放射線治療が私にとってどれほど有効かさえさっぱり分からない。分からないことであれば実験に身を委ねるしか無い。とりあえず放射線治療に賭けてそれで失敗すれば手術に賭けるという選択肢しか無かろう。但し放射線治療には大きな欠点がある。再治療ができないということだ。治療のためには許容限度一杯にまで照射する必要があり再発してもそれ以上照射できないから手術以外の選択肢は無くなる。放射線も手術も綱渡りのような危険な治療法だとつくづく思う。こんな状況に遭うとやはり癌は今尚「不治の病」だと痛感する。