北朝鮮の「二重経路戦略」を理解しなければならないと強調する。「二重経路戦略」とは、「核開発」と「外交」という二つの戦略路線を同時に追求することをいう。

2023-11-04 11:15:11 | 朝鮮を知ろう。
 

[レビュー]核兵器専門家のヘッカー氏

「米国の圧迫政策が北朝鮮核危機を拡大させた」

登録:2023-11-04 06:31 修正:2023-11-04 07:54
 
『核の変曲点-核物理学者が見た北朝鮮核兵器の実体』 
シグフリード・ヘッカー著、チョン・ジヒョン訳 |創批刊
 
 
北朝鮮核問題専門家である米国の核物理学者シグフリード・ヘッカー氏=ウィキメディア・コモンズより//ハンギョレ新聞社
 
 
『核の変曲点-核物理学者が見た北朝鮮核兵器の実体』(シグフリード・ヘッカー著、チョン・ジヒョン訳 、創批)

 『核の変曲点』(原題: Hinge Points: An Inside Look at North Korea’s Nuclear Program)は、米国の著名な核物理学者で核兵器専門家のシグフリード・ヘッカー氏(80、ロスアラモス国立研究所名誉所長)が復元した「朝米核交渉30年の歴史」だ。ヘッカー氏は、2004年から2010年まで毎年1回ずつ北朝鮮の寧辺(ヨンビョン)核施設を訪問し、北朝鮮の核開発を近くで見てきた、この分野で最高の西側の専門家だ。同書でヘッカー氏が投げかけた核心の質問は、「米国政府は北朝鮮の核開発を阻止する機会が何度もあったにもかかわらず、なぜその機会を何度も逃してしまったのか」。ヘッカー氏は朝米核交渉の決定的瞬間を通じてその問いに対する答えを出している。

 北朝鮮の核問題は、1993年に北朝鮮が核拡散防止条約(NPT)の脱退を宣言したことで本格化した。その後、米国をはじめとする関連国は、北朝鮮の核開発問題を解決するために努力したが、北朝鮮の核危機はむしろ大きくなった。なぜ解決に向けた努力はすべて失敗に終わったのか。ヘッカー氏は、この乱麻のような問いの答えを見つけるためには、まず北朝鮮の「二重経路戦略」を理解しなければならないと強調する。「二重経路戦略」とは、「核開発」と「外交」という二つの戦略路線を同時に追求することをいう。

 1990年代初め、冷戦末期から北朝鮮が選択した生存戦略は、米国と和解することだった。しかし、その和解は力を土台にしてこそ可能だと北朝鮮は判断した。外交と核開発のどちらかを選択するのではなく、二つの路線を同時に追求することで、一方の路線の失敗に備えようとしたのだ。その後、金日成(キム・イルソン)-金正日(キム・ジョンイル)-金正恩(キム・ジョンウン)につながる北朝鮮の指導者たちは、この二重経路戦略を貫き、この戦略によって外交を通じた和解の道が見えれば、核開発を遅らせた。しかし、米政府はこのような二重経路戦略に気づかず、ひたすら北朝鮮の非核化だけに焦点を合わせた。ヘッカー氏は、米政府が最初から「外交か核開発か」という二者択一を強要し、交渉の中間地帯をなくしたことを様々な実証資料を通じて明らかにする。

 米政府が北朝鮮の二重経路戦略に対応できなかった決定的な地点を「変曲点」と呼び、ヘッカー氏が北朝鮮を初めて訪問した2004年以降の状況を詳細に復元する。その20年近い期間に北朝鮮の核政策がどのように進化したのか、米政府は決定的な変曲点ごとにどのような誤った判断を下したのか、そして北朝鮮がどのようにより強力で精巧な核武力を構築することになったのかを分析する。同書の核心は「米国が外交努力で成し遂げた合意が北朝鮮の度重なる違反で失敗に終わってしまった」という通念を覆すことにある。視線を米政府内部に向け、米政府の行動を批判的に分析することで、核危機の深刻化の原因が北朝鮮ではなく米国にあることを明らかにする。

 また、金正恩国務委員長とドナルド・トランプ大統領の前例のないコミュニケーション方式が、北朝鮮核問題を解決する絶好の機会をもたらしたことも強調する。しかし、北朝鮮を変化に導くかのように見えたトランプ大統領も結局、北朝鮮に最大の圧力を加える戦略を放棄せず、過去数十年間失敗だけを繰り返してきた政策をさらに強く推し進めた。その結果が2019年ハノイ朝米首脳会談の失敗だった。この失敗こそ米国が駆使してきた戦略の失敗を示していると、ヘッカー氏は指摘する。その後、北朝鮮は米国との和解という戦略路線を変え、核武力の開発にさらに拍車をかけ、中国とロシアを通じて活路を見いだしている。

 同書の韓国語版の序文で、ヘッカー氏はトランプ政権に次ぐバイデン政権の「控えめな無視政策」も批判する。このような無視政策を受け、「米国との関係を正常化しようとした30年間の努力をついに清算するかたちで、北朝鮮で根本的な政策変化が起きている」。そして「北朝鮮は韓国と日本を危険にさらすだけでなく、究極的には米国本土まで脅かすほど核武力を強化している」としながらも、一筋の希望の光を見出している。北朝鮮が「実用的でもあるが、変化する環境に早く適応できる姿を見せてきた」こと、そして北朝鮮経済を発展させるためには米国との関係改善が必要であることを金正恩委員長がよく理解していることが、その希望の根拠だ。ただ、その希望を現実のものにするためには、本書に記述された苦い教訓を交渉当事者が忘れてはならないとヘッカー氏は強調する。

コ・ミョンソプ先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

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