「戦略的忍耐」政策を踏襲する米国のジョー・バイデン政権と圧迫を強調する尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権のもとでは、朝鮮半島の平和に向かって進むことは難しいと指摘した。

2023-07-31 13:24:27 | 南北は一つ
 

「対北朝鮮強硬策は核兵器を増やしただけ…

このままでは対話は成功しない」

登録:2023-08-01 06:47 修正:2023-08-01 09:09
 
[インタビュー] 
停戦70年、カミングス教授に聞く朝鮮半島の未来
 
 
ブルース・カミングス米シカゴ大学スウィフト冠教授=ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

 朝鮮戦争停戦協定締結から70年(7月27日)を迎えたが、戦争は原則的には終息しておらず、北朝鮮の核をめぐる衝突の可能性も最近急速に高まっている。

 朝鮮戦争に関する記念碑的著作である『朝鮮戦争の起源』の著者、ブルース・カミングス米シカゴ大学スウィフト冠教授は29日、ハンギョレとのインタビューで、「戦略的忍耐」政策を踏襲する米国のジョー・バイデン政権と圧迫を強調する尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権のもとでは、朝鮮半島の平和に向かって進むことは難しいと指摘した。特に、数十年間にわたり「北朝鮮崩壊論」を基にしてきた米国の政策を批判し、米国の冷徹な現実認識が朝鮮半島問題の解決の出発点になると述べた。1980年代に第一巻(上)が韓国語で翻訳されたカミングス教授の著書が先月、第二巻(下)までそろって完訳され再出版されたのは、それだけ朝鮮戦争が「進行形」であることを示している。

-停戦70周年を迎え、南北は戦争で勝利したと主張するなど、互いに対する強い敵意を示した。反省は見当たらない。朝鮮戦争について誰よりも深く研究した学者として、現在の朝鮮半島の状況をどう見るか。

 「北朝鮮は長い間、米国との関係正常化を望んでいたが、今は違うようだ。バイデン政権も関係正常化に関心がない。そうした中、朝中ロと韓米日の結束が深まっている。ウクライナ戦争が長期化し、米中関係が悪化するとともに米ロ関係が非常に悪い現在の状況は、南北関係をさらに冷え込ませるだろう。米国の北朝鮮政策は北朝鮮の核兵器と大陸間弾道ミサイル(ICBM)を増やす結果をもたらしており、これは決して米国の朝鮮半島政策の目的ではない。だから、私はいま悲観的だ。将来的には韓米両国で北朝鮮との関与に関心のある大統領が政権を握ることを望む。ビル・クリントン政権時代のように、韓米に革新的な大統領が政権を握るのが理想だ」

-『朝鮮戦争の起源』第一巻を執筆してから40年が過ぎた。その後、ベルリンの壁が崩れ、ソ連が崩壊した。教授は朝鮮半島の歴史がどこに向かって展開すると予想していたのか。

 「冷戦の終結後、2つのコリア(南北)にどんなことが起きるかについてずっと考えてきた。著書が広く読まれた分、質問もたくさん受けた。私は北朝鮮が崩壊しないと主張した。北朝鮮の指導部は、どうすれば権力を保てるかを熟知しているという現実を直視すべきだと指摘した。そのため、多くの批判も受けた。妻の親戚にも批判する人がいた。(カミングス教授の妻は韓国人)。朝鮮半島の人々は数千年にわたり、主に王朝と君主制という政治体制のもとで暮らしてきたが、これは世界で最も長い期間の一つだ。北朝鮮の住民たちは君主制、日本の支配、族閥王朝以外には経験したことがない。それを嘆かわしいと言ったからといって、それが北朝鮮に何らかの影響を与えるわけではない。私は北朝鮮、北ベトナム、中国は東欧と違ってソ連が指導しなかった反植民地革命に当たるケースだと説明してきた。東欧の政権はスターリンによって移植された。ゴルバチョフが東ドイツの民主化を容認した当時、東ドイツにはソ連軍40万人がいた。北朝鮮はソ連の複製品ではない。米情報当局も(東欧の事例を見て)完全に誤った推定をしてきた。ジョン・ドイッチ中央情報局(CIA)長官は1995年、北朝鮮が崩壊するかどうかではなく、いつ崩壊するかが問題だと述べた。それから48時間も経たないうちに北朝鮮軍首脳部は、朝鮮戦争が再び勃発するかどうかではなく、いつ勃発するかが問題だと反論した。これは、米国の政策のどこが間違っているのかを端的に示している」

-韓国の新政権発足後、南北関係は悪化の一途を辿っている。何が原因だと思うか。

 「北朝鮮の持続的な核兵器庫の強化とミサイル発射などが結びついた問題だろう。韓国では、強硬かつ敵対的に出るのが北朝鮮の効果的な扱い方だと考えた前任者たちに倣う保守的な大統領が政権を握っている。北朝鮮に対する最大限の圧迫は、韓国国民に自分を強く見せたい尹錫悦大統領のスタンスとより関連があると思われる」

-北朝鮮の今年の停戦協定70年行事には、中国代表団だけでなくロシアのセルゲイ・ショイグ国防相も出席した。新冷戦について語る人も多い。朝鮮戦争は冷戦初期に勃発した。このような状況をどれだけ懸念すべきか。

 「非常に重要な状況展開だ。ロシア国防相が平壌(ピョンヤン)を訪れたというニュースを見て驚いた。(ロシアと違って)中国は停戦協定締結の当事国でもあり、関係が悪化した2014~2015年を経て北朝鮮と以前よりも絆が強まった。米国が中国に敵対的な場合、北朝鮮にも敵対的だというのはほぼ物理の法則のようなものだ。ロシア、中国、北朝鮮、イランは協力を強め、4カ国による反米政権連帯を作り上げた。中ロが制裁の履行に真剣でなくなったのは、北朝鮮にとって風穴になっている。冷戦時代を思い出させるこのような状況は、二つのコリアの間で肯定的な事件が起きるまで長い時間がかかることを示唆する」

-バイデン政権は「前提条件のない対話」を掲げている。バラク・オバマ政権の「戦略的忍耐」の繰り返しという指摘もある。バイデン政権で対話の再開が可能だと思うか。

 「バイデン政権の政策は、銃器規制協定を進めようと提案しながら『私はあなたを狙う機関銃5万個を手放すつもりはないが、あなたは機関銃をなくせ』というのと同じだ。米国は爆撃機や、核兵器を搭載して最近釜山(プサン)に寄港した戦略原子力潜水艦『ケンタッキー』などで北朝鮮を威嚇してきた。そのような状態で対話が成功する見込みはない。バイデンが再選するなら、より建設的な北朝鮮政策を展開する可能性もあると思う。昨日、シグフリード・ヘッカー(北朝鮮を数回訪問した米国の核科学者)と共にコンファレンスに出席したが、上院に北朝鮮の核問題についてブリーフィングした時の話を聞かせてくれた。(上院議員だった)バイデンが近づいてきて、2時間にわたり北朝鮮について話し合ったという。今は大統領選挙を控えているため、北朝鮮と新たな試みをすることはないだろう。しかし、彼が二期目を迎えれば、私たちは少なくとも北朝鮮について多くのことを知っている大統領を持つことになるだろう」

 
 
ブルース・カミングス米シカゴ大学スウィフト冠教授=ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

-ドナルド・トランプ前大統領が政権を握るとしたら、北朝鮮政策はどうなるだろうか。金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長がトランプ前大統領の返り咲きを期待していると思うか。

 「とても難しい質問だ。金正恩はトランプに会えてとても嬉しかっただろう。私はトランプがどの現職大統領もしなかったことを実行に移したことは認める。しかし、ハノイでの朝米首脳会談で、トランプと補佐陣は昼食会もキャンセルしてその場を立ち去った。これは非常に屈辱的な出来事であり、手ぶらで平壌に帰る金正恩は大変困ったことだろう。トランプは前日に言ったことを翌日には覆せる気まぐれな人物なので、予測が非常に難しい。トランプの最大の長所は、ワシントンの外交政策エリートたちをあまり気にしないことだ。しかし、私はトランプは再選できないと思う」

-金委員長が主要行事に相次いで娘のキム・ジュエと共に姿を現したことで、娘を後継者にすると予想する人もいるが、これについてどうみるか。

 「私が間違っているかもしれないが、(金委員長は)世界の世論と韓国の世論を弄んでいるのかもしれない。私は金正恩がさらに数十年は権力の座に留まると思う。息子もいると聞いている。北朝鮮のような保守的な王朝では、息子が継承する可能性が高いだろう。韓国人や多くの米国人にとってあまり嬉しくないことかもしれないが、金正恩は私たち二人よりは長生きすると思う。いや、あなたより長生きするかどうかは分からない」

-教授は朝鮮半島の分断と朝鮮戦争に対する米国の責任を強調してきた。また、一人の米国人として責任を感じるとも語ってきた。米国がこのような歴史的、道徳的責任について何をすべきだと思うか。

 「米国は一方的に朝鮮半島を分断させたという莫大な責任を負っている。これと共に、私がますます理解できないのは、連合軍が日本のために働いた民族反逆者を特に警察と軍隊で再雇用したことだ。私は朝鮮戦争に関する著書で、誰が戦争を始めたのかを取り上げた章を通じて、3つのシナリオを提示した。同章の結論では、一つの答えを得るための質問を投げ続けると、二つのコリアは決して和解できず、それは二つのコリアと米国、ソ連、中国がいずれも戦争に責任があるためだと記した。(朝鮮戦争)当時、韓国には検閲があり、米国は最も抑圧的な時期であるマッカーシズムの時代だった。したがって、朝鮮戦争は(真相が)あまり知られていない戦争であり、より多くの人が戦争について(きちんと)知れば、いつか統一のチャンスも広がると思う」

-先月、『朝鮮戦争の起源』が韓国で完訳され、再出版された。韓国の読者たちに伝えたいことは。

 「素晴らしい翻訳で全巻がついに出版されたことに大変満足している。第一巻が1981年、第二巻が1990年にそれぞれ訳されてから、2023年に全巻がそろって再出版された。これは異例のことだ。私が同書で取り上げようとした質問の重要性を示していると思う」

ワシントン/イ・ボニョン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

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