小さくてみじめったらしくて汚い9歳の少年が、師匠に出会う。
師匠に「おまえはけだもの同然だ。人間の形をしたゼロだ。今のままでいたら冬が終わる前に死んでしまう。私と一緒にいたら空を飛べるようにしてやるぞ」といわれ、彼の人生が始まる。
少年は物事がうまくいき始めるとすべてを失いゼロになる。生きる上で本当に大切な何かを得てそれを失う。それでも人は生きていかなくてはならない。
人生とはそういうものだ、と作者は重ね重ね、私たちの人生を裏から励ますために、少年に困難を与えているようだ。少年はボロボロになりながらも、今自分に出来る最大限の力を使って前に進んでいく。
悲しい人生であるが、祝福したくなる。私達の人生も程度の差こそあれ、このようなものなのではないだろうか。
少年は、老人になって空を飛ぶ厳しい修行を振り返る。いくらなんでもあの修行は厳しすぎたのではないかと。ひょっとすると空を飛ぶのに唯一本当に必要だったのは、絶望だったのではないかと。
私たちだって、本当の絶望的状況に出会ってはじめて、浮かび上がることが出来るのだと思う。絶望的状況から立ち上がって起き上がることが、本当の人生を掴み取ることなのだ。
私はこの物語が好きだ。