やっとドストエフスキーの「死の家の記録」を読み終わった。少しずつ読んでいたので時間がかかってしまった。この本を読んだのは今回で二度目だが、前回よりも落ち着いて読めたと思う。
「死の家の記録」は、端的にいうと、刑務所の囚人たちのことを書いた小説である。フィクションの形をとっているが、ドストエフスキーが4年間シベリア流刑に処せられたときの獄中体験をリアルに再現したものと考えていい。
囚人たちの心理描写が素晴らしい。あの描写は実際に近くで観察しなければなかなか書けるものではない。ただ、近くで見ていたとしても凡人にはあそこまでの観察はできない。ドストエフスキーの洞察力には本当に脱帽する。
犯罪自体は殺人だったり強盗だったりするが、囚人の悪さは一様ではない。悪さにもいろんな種類がある。快楽・淫欲・情欲などの野獣的な渇望が支配し、野獣のような人間もいるし、鋼鉄のような精神力をもって復讐などの目的を達成する人間もいる。
このような悪さの種類の多さは、おとなしい日本人とは違って、凄まじいエネルギーを持ったロシア人特有のことかもしれない。
正直言って、もし私がこの囚人たちの中にいたら、憎むことはあっても友人になることは難しいだろうなぁと思う。その点、ドストエフスキーの視点は、憎しみや怒りが感じられるものの、ギリギリのところで温かい。彼は、キリスト教(ロシア正教)の一番いい部分を持ち合わせているのだと思う。
悪党にすら慈悲の心を持つことができれば、本当の意味で強くなれるのだけれど、と思う。私にそれができるだろうか。そんなことを自分自身に問うてしまう小説だった。