フリードリヒの日記

日常の出来事を、やさしい気持ちで書いていきたい

「泥の河」・「蛍川」 宮本輝

2011年05月29日 00時16分58秒 | 読書・書籍

 宮本輝の処女作「泥の河」と「蛍川」の二作が入っている本を読んだ。前者は太宰治賞、後者は芥川賞をとった名作である。宮本輝の小説はちょっと前に錦繍を読んだだけで、ほかは知らない。しかし、錦繍があまりによかったから、勝手にファンになっていた。まぁ、ファンだと言うと本当のファンに怒られるかもしれない。それくらい錦繍はよかった。
 今回読んだ二作は、両者とも素晴らしかった。甲乙付けがたいが、どちらかというと「蛍川」が良かったかなぁ。

 「泥の河」は戦後10年後くらいの貧しい時代の話で、大阪・安治川の河口に住む少年の話である。
 簡単にあらすじをいうと、信雄少年は、ある雨の朝、鉄くずを盗もうとしていた喜一という少年に出会う。その少年は川岸のみすぼらしい船の上に住んでいた。船には、銀子という姉と売春をして生計を立てている母が住んでいる。ある晩、信雄は、喜一の母が男に身を売っているところを見てしまう。そのことで、二人の関係はおかしくなってしまう。
 戦後、貧しい時代に夫のいない子持ちの女性が生活をしていくためには、身売りしなければならなかった。今と違って、子供も早く大人にならなければならない時代だったのだろう。厳しい状況の中でタフに生きていくには、ある種の犠牲が必要で、それには悲しみが伴うことをはやく知らなければならない。友情にヒビがはいり、心にすこしだけ傷を負いながら大人になっていく姿に切なさを感じてしまう小説だった。

 「蛍川」は、14歳の少年の話である。実業家で裕福だった父親が、事業も失敗し老い衰えて病気で死んでしまう。父の死で経済的に落ちぶれていく感じが小説のトーンを暗くしている。そして、英子という同じ女の子を好きになっている友人も川で溺死する。そのように不幸な出来事が重なっているにもかかわらず、少年はクールで、ほとんど英子のことしか考えていない様子である。この心理描写は本当にリアルで見事である。私も思春期の時期に身内を何人か亡くしたが、正直言って悲しいというより、自分の今の状況のことしか考えていなかったと思う。周りがどんなに暗くても成長期にある少年は、基本的に上昇志向なのである。それと下半身の硬くなるアレのことしか頭にない。本当に。話が脱線してしまった。戻そう。
 そのような暗い状況の中で、少年は英子に蛍の大群を見に行かないかと誘う。そして、蛍を見に行くことになる。光の大群に圧倒される少年たち。その蛍の美しさと光が、これからの希望を象徴するかのように描かれている。あんなに暗いトーンで始まった小説が、読後、力強く静かなエネルギーを放って終える。
 自然描写、心理描写、どれをとっても素晴らしい。宮本輝は只者ではない。

 

 

 

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