15回目の受験、試験官はSさん、先日私を絶望の淵まで追い込んだ方です…。天候は大雨で、受験者は僕一人…。他の受験生がいないので、Sさんに一つ思い切ってお願いしました。
「S先生(”先生”と呼んでました)、試験の内容をビデオに撮っていいですか?特にどこが悪いのか、自分でじっくり確かめたいので…、撮影禁止とどこにも書いてませんし、幸いにも他の受験生がいないので迷惑もかからないかと思いますので」
私はハンディカムを持って彼にお願いしました。
彼は驚いた表情を見せました、すると
「確かに特に規定にはない話ですが、上司と相談してみます」
彼は電話で10分程度やりとりをした後、「すみません、確かにおっしゃる通り規定にはないのですがやはり『試験』なんでビデオ等で撮影するのはダメだそうです」
ビデオ作戦は失敗に終わりましたが、気を取り直して受験…。試験官がSさんだろうがKさんだろうがやることは同じ、開き直りで受験しました。
乗る時及び発進の際左右の後方確認、左に交差点があれば常に首を左に(通過3秒前)、幅員が広い道路を通過するときも3秒前に左右確認、とにかく出来ること全てをぶつけました。
走行が終わり、待合室上にいる彼に結果を聞きにいきました。
Sさん「前回は課題まで行ってるんですか…、今回は無理ですね」
私も全力を出し切った結果に納得し、プロテクターを置いたところ
Sさん「まぁ、そこに座ってください」
言われた通り、椅子に腰かけると…。
Sさん「あなたのクセ、まったく治ってないですね…、すごく惜しい。それさえなければ合格なのに…。」
私「はあ」
Sさん「バイク乗る時ってどうやって止まる?」
私「ブレーキですか?ロックしないように柔らかにかけます」
Sさん「なんでバイクのブレーキ前後二つついてるんでしょう?」
私「前ブレーキは制動メイン、後ろはバランスとりのため、例えば一本橋とかですとリアブレーキ引っ張ってやると車体が安定します。」
Sさん「それだけですか?」
私「あとコーナーでの姿勢制御のため、突っ込みすぎたら後ろブレーキチョイ踏みして旋回力上げます」
Sさん「それだけ?」
私「あと、スリップしやすい路面でブレーキかけるとき、前だけかけてたらロックして危ないので後ろを微妙に早く踏んで……、あっ!!」
Sさん「気づきました?あなたは少なくともこの試験場では、今までほとんどリアブレーキ使わずに交差点進入してますよ。すべての交差点や減速ポイントで双眼鏡使って確認してますが、少なくともほとんど右足が動いてない。あなたの愛車、NSRのようなレーサーレプリカを乗ってる方には多いタイプです。教習所では、前と後ろのブレーキの配分を7:3にして先に後ろブレーキを小さくかけるって習いますよ。あなたは知識もテクニックも豊富ですが基本的なところを使わず今まで過ごしてきたのですよ」
そうです、先日の物語で書いていた『重大なクセ』とは、リアブレーキをバランスよく使ってなかったことです。
私はすごく恥ずかしくなりました、今まで散々悪態をついたり影でボロカス言ったりしてた鬼のような試験官が私のライディングの欠点を完全に見抜いていた事実に…。さらになんでこんな簡単なことに気付かなかったのだろうと…。
Sさん「私もあなたのようなオートバイ乗りがバイクの素晴らしさや難しさをどんどん勉強してくれて、大型バイクに乗るのを楽しみにしている一人です。今回は残念な結果に終わりましたが、どんどん勉強してバイクを楽しんでください。」
試験場では厳しい面ばっかり目について、時々いやになることもありましたが、彼の言葉を聞いて教習所に逃げたり途中でリタイアせず頑張ってきてよかったなと思いました。
落ちたのにニコニコ顔で帰りながら、絶対SさんかKさんで合格して恩返ししようと心に誓いました。
続く