先日、岡山市に住む母方の従妹から「白桃」が送られてきた。それも自分の畑で育てた苦心の作である。箱を開けると、一気に甘い香りが広がる。うぶ毛が生えたような薄黄色の肌、とり立てのみずみずしさが伝わってくる。早速、冷蔵庫へ入れるが、白桃はあまり冷やしすぎてはうまくないそうで、冷やし加減が大事だという。
ナイフでちょっと皮をめくると、あとは指でむけるほどのやわらかさ。むいていると果汁がポタポタ、かぶりつくとほのかな甘さと香り、さすが岡山の白桃である。普段は高級品なので買ってまで食べることはないが、毎年この時期には、ぜいたくにも白桃の美味を独り占めできるのである。
この従妹は確か今年60歳になったばかりであろうか。地方公務員だった夫、一男二女の家計を切り盛りするため、若いときからパート勤めをしながら、小さな畑で野菜を作っていた。夫が定年退職してからは車で30分近く離れた田舎に畑を借りて、たくさんの種類の野菜から、梅や桃、イチゴなどの果実、自家製の梅干やジャムなど、本格的に自給自足に精を出している。収穫物は3人の子ども達に送っているそうで、子ども達は両親手作りの食料定期便を心待ちにしているという。
そんな忙しい畑仕事の傍ら、彼女は年老いた両親と叔母の面倒も看ている。母親は脳梗塞の後遺症で言語障害と足の麻痺、それに軽い認知症で福祉施設にお世話になっている。父親は肺の病気で喉に管を挿入しているが、まだ元気なのでヘルパーさんの手を借りて家で1人暮らしをしている。が、この父親が頑固者で、食べ物は娘が買ってきたものでなければダメ、それもどこそこのという注文付きとくる。娘は一日おきにあっちの店、こっちの店と走り回って買ってゆくというから大変である。そして、叔母というのは母の妹で軽い認知症、身寄りがないので彼女が身元引受人となり施設に入っているが、施設から何かと連絡があり出かけてゆかねばならない。だが、彼女の夫がよくできた人で、車に乗れない彼女の足となってあちこち走り回ってくれるという。
まさに、典型的な老々介護である。3人が一ヶ所にいるのならまだいいが、それぞれ別々のところにいるので、日によっては一日がかりになるそうだ。だが、感心なことに彼女は全くグチを言わないのである。「お父さんが頑固で困る…」と時折こぼすことはあるが、さほど深刻には思っていないようで笑っている。彼女には兄がいるが、やはりこういう場合に男は役に立たず、金銭面は兄、労働力は妹ということにしているらしい。彼女は一人娘で何の苦労も知らずに育ち、わがままだった小さい時の彼女からするとまるで別人のようである。もう何年になるだろうか、夫が在職中は自転車で走り回っていたが、なかなかできるものではないと頭が下がる。
彼女には嫁いだ娘2人と、小児科医をしている長男がいる。その長男は、年齢は多分30歳を少し過ぎた頃か、現在、四国の某国立医科大学の勤務医をしているが、これが今どき珍しい「赤ひげ先生」の現代版のような青年である。大学病院より巷の病院の勤務医の方が収入も多いだろうに、銭カネなど問題ではないらしい。生活の拠点が病院というような状態をずっと続けていたようで、家庭を持つと仕事に没頭できないとなかなか結婚もしなかった。が、10年以上も付き合ってきた彼女の両親の手前もあり、周囲の強い説得で、ようやく一昨年、結婚式だけは挙げた。
昨今、小児科医は敬遠されがちで志望する若者が少ないと聞くが、彼は大の子ども好きで、いつ急変するか分からない小さな子ども患者を受け持つと不眠不休で家にも帰らないというのである。また、自分に子どもができると家庭に比重を置くようになり、自分の理想とする医療ができなくなるから子どもは作らないという。いくら親が説得しても聞き入れないという頑固さ、双方の親はもうあきらめているようである。だが、男は仕事に生きられるが、女は違うだろう。が、このお嫁さんがよくできた人で、そういった彼の生き方を受け入れているのか、文句も言わずサポートに徹している。医療に自分のすべてを傾注している彼を、男のエゴだと一口に責めることもできないのであろう。
老々介護と畑仕事、近くに住む孫のお守りにと、目の回るような忙しい毎日だろうに、彼女たち夫婦にはまだ気持ちの余裕が感じられ、とても充実した日々を過ごしているように見えるのが不思議である。やはり気持ちの持ちようであろうか。
「白桃」の話がとんだ内輪話になってしまったが、彼女たちの労苦がにじんだ白桃、形は不ぞろいでも味はことのほか美味であった。
ナイフでちょっと皮をめくると、あとは指でむけるほどのやわらかさ。むいていると果汁がポタポタ、かぶりつくとほのかな甘さと香り、さすが岡山の白桃である。普段は高級品なので買ってまで食べることはないが、毎年この時期には、ぜいたくにも白桃の美味を独り占めできるのである。
この従妹は確か今年60歳になったばかりであろうか。地方公務員だった夫、一男二女の家計を切り盛りするため、若いときからパート勤めをしながら、小さな畑で野菜を作っていた。夫が定年退職してからは車で30分近く離れた田舎に畑を借りて、たくさんの種類の野菜から、梅や桃、イチゴなどの果実、自家製の梅干やジャムなど、本格的に自給自足に精を出している。収穫物は3人の子ども達に送っているそうで、子ども達は両親手作りの食料定期便を心待ちにしているという。
そんな忙しい畑仕事の傍ら、彼女は年老いた両親と叔母の面倒も看ている。母親は脳梗塞の後遺症で言語障害と足の麻痺、それに軽い認知症で福祉施設にお世話になっている。父親は肺の病気で喉に管を挿入しているが、まだ元気なのでヘルパーさんの手を借りて家で1人暮らしをしている。が、この父親が頑固者で、食べ物は娘が買ってきたものでなければダメ、それもどこそこのという注文付きとくる。娘は一日おきにあっちの店、こっちの店と走り回って買ってゆくというから大変である。そして、叔母というのは母の妹で軽い認知症、身寄りがないので彼女が身元引受人となり施設に入っているが、施設から何かと連絡があり出かけてゆかねばならない。だが、彼女の夫がよくできた人で、車に乗れない彼女の足となってあちこち走り回ってくれるという。
まさに、典型的な老々介護である。3人が一ヶ所にいるのならまだいいが、それぞれ別々のところにいるので、日によっては一日がかりになるそうだ。だが、感心なことに彼女は全くグチを言わないのである。「お父さんが頑固で困る…」と時折こぼすことはあるが、さほど深刻には思っていないようで笑っている。彼女には兄がいるが、やはりこういう場合に男は役に立たず、金銭面は兄、労働力は妹ということにしているらしい。彼女は一人娘で何の苦労も知らずに育ち、わがままだった小さい時の彼女からするとまるで別人のようである。もう何年になるだろうか、夫が在職中は自転車で走り回っていたが、なかなかできるものではないと頭が下がる。
彼女には嫁いだ娘2人と、小児科医をしている長男がいる。その長男は、年齢は多分30歳を少し過ぎた頃か、現在、四国の某国立医科大学の勤務医をしているが、これが今どき珍しい「赤ひげ先生」の現代版のような青年である。大学病院より巷の病院の勤務医の方が収入も多いだろうに、銭カネなど問題ではないらしい。生活の拠点が病院というような状態をずっと続けていたようで、家庭を持つと仕事に没頭できないとなかなか結婚もしなかった。が、10年以上も付き合ってきた彼女の両親の手前もあり、周囲の強い説得で、ようやく一昨年、結婚式だけは挙げた。
昨今、小児科医は敬遠されがちで志望する若者が少ないと聞くが、彼は大の子ども好きで、いつ急変するか分からない小さな子ども患者を受け持つと不眠不休で家にも帰らないというのである。また、自分に子どもができると家庭に比重を置くようになり、自分の理想とする医療ができなくなるから子どもは作らないという。いくら親が説得しても聞き入れないという頑固さ、双方の親はもうあきらめているようである。だが、男は仕事に生きられるが、女は違うだろう。が、このお嫁さんがよくできた人で、そういった彼の生き方を受け入れているのか、文句も言わずサポートに徹している。医療に自分のすべてを傾注している彼を、男のエゴだと一口に責めることもできないのであろう。
老々介護と畑仕事、近くに住む孫のお守りにと、目の回るような忙しい毎日だろうに、彼女たち夫婦にはまだ気持ちの余裕が感じられ、とても充実した日々を過ごしているように見えるのが不思議である。やはり気持ちの持ちようであろうか。
「白桃」の話がとんだ内輪話になってしまったが、彼女たちの労苦がにじんだ白桃、形は不ぞろいでも味はことのほか美味であった。
秋田にも県北に「北限の桃」という名の桃があるのですが、主に福島県の桃が流通してます。白桃は、めったに目にしないのですが、その貴重な岡山の桃、頂戴して2回ほど口にしたことはありますよ。ピンクの桃とはひと味違う上品なお味で感激しました!
従妹様方では畑でつくられたとのこと。画像の見事な桃には驚きです!
ご苦労もおありのご多忙の中、こうしたことにも時間を有効に使われるバイタリティといいますか精神力には頭が下がります。
気の持ちようは、かなり大切ですね。
岡山の白桃とマスカットは日本でも誇れる果物です。
めったに口に入ることはありませんが、従妹の好意で毎年贅沢をさせてもらっています。
老々介護でともすれば沈みがちになるだろう毎日を明るく生きている従妹には本当に感心します。
またこうした親の背中を見ている子ども達、きっとその時が来たら大事にしてくれるでしょうね。
娘の主人が岡山出身ということでか、岡山産の白桃とマスカット、ピオーネの缶詰。
お酒でなく期待はずれと思ったのですが、食べてみるととても新鮮味が残っていて、多分値段も高かったろうと思いました。
岡山産の大粒ピオーネは何度か頂きましたが、一度白桃を買って食べてみたいと思います。
今年の岡山の白桃は、7月に入ってから日照時間が少なかったそうで、昨年に比べて糖度が低かったそうです。
そういえば、従妹の白桃も昨年ほど甘くないなと感じました。
自然を相手の畑仕事は大変ですね。
どうぞ一度白桃を召し上がってみてください。
手でむけるやわらかさ、果汁たっぷりで本当に暑い夏には最適の果物ですよ。