リーマンショックの後、大不況になったアメリカでは、どこの工場も大赤字になった。人を減らさなければ経営が成り立たない。だけど、正面切ってリストラしたのでは、大反対が起きてなかなかうまくできない。誰だって首になんかされたくないし、落ち度もないのにリストラされたのではたまったものではない。法律上のいろんなハードルもクリアーする必要がある。そこである工場の経営者は一計を案じた。
「明日、薬物検査を行ないます」
と全社員にアナウンスしたのだ。
するとあっという間に全社員の半分くらいが自発的に辞職した。
つまり、社員の半分はドラッグをやっていたわけだ。検査で見つかったら後ろに手が回ってしまうので、そんなことになってはかなわないとばかりにすぐに辞めてしまった。もちろん、注文が激減してラインがとまっているので、人の数が半分になっても工場はまったく困らない。人件費削減に成功してその工場はピンチをしのいだ。
「俺が本社から派遣されていた工場も小さいところだけど、そこでも三人くらい昼間からラリってる奴がいるわけよ。しょっちゅう問題を起こしたりして、手を焼いたもんだよ。みんなで押さえつけて暴れるのをとめたりしてさ。クスリをやってる奴って、けっこういるんだよね。その工場はそれを逆手に取って社員を辞めさせたわけだけど、狐と狸の化かしあいってところかな」
知人は笑うしかないよなというふうに語る。
アメリカってなんだか変なところだよなあと聞きながら思った。
(2012年6月16日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第181話として投稿しました。 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
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