風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

ナンバープレート百八十万円也(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第343話)

2017年02月20日 06時45分45秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』
 北京、上海、広州といった中国の大都市では、車のナンバープレートは毎月一回のナンバープレートオークションでしか買えないことになっている。
 新車を購入した場合、このオークションでナンバープレートを買わなければ公道を走ることができない。交通渋滞や大気汚染が深刻な大都市で車の増加を抑制するために導入された制度だ。単純に抽選とすればよいものを、わざわざオークション制にして金儲けのネタにするところが中国らしい。
 上海の場合、毎月七千枚から八千枚のナンバープレートがオークションにかけられる。だが、上海のような大都会でたったそれだけではまったく足りない。
 上海人の知り合いは二〇一五年の一月に新車のセダンを買った。免許も取り立てで、初めて買った車なものだから、うれしくて仮ナンバーをつけていろいろとドライブへ出かけた。
 ところが、春になっても、夏になっても、秋がすぎても、オークションでナンバーを落札できなかった。新車は最初の一か月間運転しただけで、あとはビニールシートをかぶせ、駐車したままになった。仮ナンバーはひと月六〇〇元もするから、毎月その金額を払って仮ナンバーをとるのはもったいない。
 上海ナンバーをあきらめて、上海近郊のほかのところでナンバーを取得する人も割りといるが、
「上海人なのにどうしてよそのナンバーをつけなくちゃいけないんだ」
 とそれは上海人のプライドが許さなかった。
 毎月応札してははずれ、二〇一五年の年末になってようやく落札。が、値段は八万九千元(約百八十万円)。中国国産のセダンやワゴンなら余裕で買える金額だ。車を買ったうえに、ほとんど同じ金額でナンバープレートを買わなければならないのだから、なんだか割りに合わない気がするけど、これで晴れてドライブへ出かけられるようになった。ナンバープレートがないばかりに眠っていたあわれな「新車」を約一年ぶりに動かすそうだ。




(2016年1月4日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第343話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/


詐欺各種(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第342話)

2017年02月15日 22時00分15秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』

 日本にもいろんな詐欺があるが、中国の詐欺も様々だ。

 広州では繁華街に母と娘の二人連れの詐欺師が現れる。服装はごく普通の格好をしている。
「先生、パンを買うお金がありません。パンを買うお金を恵んでもらえませんでしょうか」
 娘のほうが声をかけてくるが、もちろん詐欺だ。乞食を装い、お金を騙し取る手合いだ。
 もしもこちらがお金を恵んだりしたら、次からつぎへといろんな理由を繰り出して、もっとふんだくろうとする。危ないから相手してはいけない。なにも言わずにさっと逃げるに限る。時々、服をつかんでくる奴がいるので、そんなときは振り払う。

 上海のオフィス街の近くには、ぱりっとした背広を着た詐欺師が出る。
「出張で上海へきたのだけど財布を落としてしまった。友達と待ち合わせをしていて、そこまで行けば友達が助けてくれると思うのだが、その待ち合わせの場所へ行くまでのお金を貸してくれないだろうか。友達に会ったら、そのお金を返すから」
 もちろん、嘘だ。
 僕は会社の帰り道に何度も出くわした。詐欺師は、
「わたしの北京語がわかるか?」
 と念を押しながら聞いてくることもあるから、もしかしたら外国人をターゲットにして狙っているのかもしれない。

 事務所の固定電話には、
「こちらは順豊宅配便です。三回目の最後の通知です。荷物をお受け取りになられておりません……」
 と自動音声の声で電話がかかってくる。
「なにか荷物が来ているのかな」と音声ガイダンスに従って受付を呼び出すと、代金引換の荷物を届けにきて、その代金を騙し取られる。
 ちなみに、順豊は中国では大手の宅配便業者で利用者は多い。日本で言えばクロネコヤマトの宅急便みたいな存在だ。
 この順豊詐欺電話はしつこく何度もかかってくる。大手宅配便を騙った詐欺だから、騙される人も多いのかもしれない。

 振り込め詐欺もある。
 携帯電話に「今月の家賃が振り込まれていない」だとか、「お兄ちゃん、出張先で財布を盗まれてしまったから、この人の口座にお金を振り込んで」だとか、わけのわからないショートメッセージがくる。ブラックリストに入れてしまえば次からはメッセージを拒否できるわけだけど。

 今まで出くわしたなかでいちばんよくわからないのが、「俺はボス」詐欺だ。
「ボスだ。明日、私のオフィスまで来てほしい」
 と中年の男から電話がかかってくる。
「どちらさまですか(您是哪位?)」
 こう問い返すと、
「私だ。お前のボスだ(我,你的老板)」
 と意味不明の答えが返ってくる。
「存じ上げませんが、どちらさまですか(我不认识您,您是哪位?)」
 僕がそう畳みかけると、
「お前のボスは私一人しかいないじゃないか(你的老板,只我一个人吧)」
 と多少うろたえ気味に答えが返ってきて、
「とにかく、明日オフィスで待っているから」
 と電話が切れる。
 だいたい、上司の声は覚えているものだから、「ボスだ」といってもすぐにばれる。たとえ、声が似ていて騙されたとしても、オフィスはどこにあるかわかっているから、妙なところへ呼び出そうとすれば嘘だとわかってしまう。携帯電話にかかってくるから、相手の電話番号も表示される。やすやすと呼び出される人はそんなにいないと思うのだが。
 間違い電話のようなノリで果たして人を騙せるのか? 不思議だ。


(2015年12月27日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第342話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/


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