風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

おから運びブルース

2017年10月25日 06時45分45秒 | 詩集

 運ぶんだよ
 おからをよ
 運ぶんだよ
 おからをね
 俺らは軽トラ運転手
 夜の商店街を走る

 おからは
 体にいいんだよ
 おからは
 栄養満点なんだよ
 お腹が空いたら
 つまみ食い
 だから
 俺らは風邪知らず

 商店街から商店街へ
 豆腐屋からお豆腐屋へ
 おからを集めて
 回るんだよ
 寝静まった
 街を走りぬけて


 今日はちょっぴり
 悲しいんだ
 あの娘(こ)に
 ふられてしまったよ
 好きな人が
 いるんだってさ
 俺らの
 ハートは破けたよ

 荷台には
 おからがいっぱい
 ごとごとごと
 揺れて走るよ
 総菜工場へ行くんだよ
 みんなの
 おかずになるんだよ

 おからは歌うよ
 ほがらかに歌うよ
 ときどき
 荷台からこぼれる
 明日の朝
 雀のえさに
 なるんだよ


 運ぶんだよ
 おからをよ
 運ぶんだよ
 おからをね
 俺らは軽トラ運転手
 夜の商店街を走る



八瀬の秋

2017年10月18日 06時45分45秒 | 詩集

 あの人と過ごした
 何気ない日々
 長い髪に
 ふと手をやる仕草が
 愛おしかった

 旅を終えれば
 帰ってくると
 約束したが
 そのあてはないと
 わかっている

 今は独り
 渓流に佇み
 あの人の横顔を
 想い出す

  秋の瀬音
  さみしくて
  八瀬の水音(みなおと)
  暮れなずむ空に
  過ぎ去りし夏を想う


 短い日々で
 よかったのかもしれない
 美しいまま
 ふたりの物語を
 飾っておけるから

 交わした言葉が
 心のなかを
 めぐりめぐって
 いつかわかりあえると
 思いたい

 今は独り
 風に佇み
 竹の葉ずれに
 口ずさむ

  秋の瀬音
  せつなくて
  八瀬の水音
  暮れなずむ恋に
  過ぎ去りし君を想う


 遠くおぼろに
  鳴る鐘に
 砕ける光が
  沈みこむ
 時のうつろいを
  静かに告げる

 すれ違った愛が
 夢のなかを
 めぐりめぐって
 いつかわかりあえると
 信じたい



白萩の詩

2017年10月09日 06時45分45秒 | 詩集

 懐かしい人に会いました
 ほんの偶然
 慌ただしい日々の間に
 ぽっかりと時間の空いた
 なにげない昼下がり
 花の店の前に立ち
 色とりどりにならんだ
 季節の花を
 選んでいた時のことです

 あの人はふわりと
 花の笑顔
 そよ風に揺れる
 白萩のようでした
 あの頃
 私が愛した
 笑顔のままでした

  逆さになった砂時計
  透きとおる風の向こうから
  甦る青春の日々
  学び舎の窓際に
  ぽつりと佇むあの人
  グランドの向こうで
  青く光り輝く海
  心地よい潮騒
  自転車で送った
  夕焼けの帰り道
  なにもかもが
  初めての恋

 髪型はすっかり変わり
 落ち着いた大人になりました
 あの頃は
 化粧もしていませんでしたが
 美しい頬紅をつけています
 それでもあの人は
 やはりあの人のままでした
 それがなぜだかうれしくて

 弾む思い出話
 夢咲くほほえみ
 初恋の日々の陽射しが
 ふたりをつつむよう
 あの人は口元を押さえます
 薬指の指輪が
 とても楽しそうに
 きらりと光りました

 それぞれの道を
 確かめあったあと
 あの人は
 花束を抱えて遠ざかります
 贈る言葉は
 くるおしいほどに
 愛し合いながら
 傷つけあった昔
 別れたあの日と
 同じ言葉でした


雨乞いのダンス(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第378話)

2017年10月01日 06時45分45秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』

(今回は寓話です。)

激しい旱魃かんばつがある村を襲った。
 小さな川はほとんど干上がり、乾燥し過ぎた地面はひび割れ、田畑は枯れ始めた。
 これでは作物をまともに収穫できないと危機感を覚えた村人たちは、村の呪術師に相談した。呪術師はしわがれた老人だった。村の祭事を取り仕切り、赤子が生まれれば名付け親になり、病人が出れば悪魔祓いの儀式を行なって村人の病気をなおした。村人からは尊敬を集め、頼りにされていた。
「踊るんじゃよ」
 呪術師は厳かに言った。
 互いに顔を見合わせた村人はみな、そうするしかないと頷いた。他に方法はないのだ。
 村の広場にきらびやかに飾り付けた祭壇を設け、村人はなけなしの食料から雨の神様へお供えした。呪術師の合図とともに村人たちは神聖な円サークルを作って踊り始めた。雨が降らなければ収穫できない。作物がなければ、村人は飢え死にするしかない。暮らしを守らなくてはならない。みんな真剣そのものだった。呪術師は祭壇の中央で髪を振り乱して祈祷した。
 一日中踊ったものの雨は降らない。雨雲がやってくる気配もない。太陽はにくらしいほどに光り輝き、空は澄み切っている。それでも村人たちは、雨が降ることを信じて、その日も翌日も踊り続けた。
 さすがに村人たちは疲れ始めた。踊りが鈍くなる。
「なにをしとるんじゃ。みな死にたいのか? こんな踊りで雨が降るとでも思っておるのかい。元気を出してやりなさい」
 呪術師は村人を叱りつける。わずかばかりの休憩を取って気を入れ直した村人たちは、また踊り始めた。
 踊り続けて一週間が過ぎ、二週間が経った。雨の神様はまだ村人たちにこたえてくれない。空は晴れたままだ。田畑の作物はますます枯れる。
 村人たちは、どうやら雨の神様は自分たちを相手にしてくれていないようだから、とりあえずダンスを中断して深い井戸を掘ったほうがいいのではないかと相談を始めた。村の各所にある井戸もそのいくつかが枯れ始めていた。このままでは水すら飲めなくなる。呪術師は猛烈な剣幕で怒った。
「必ず雨は降る。降らないのは踊り方が悪いからだ」
 呪術師にここまで言われては、村人たちは従うよりほかになかった。なにしろ呪術師は権威があるのだ。呪術師のいうことに間違いはない。
 残りわずかになった村の食料からさらに祭壇へお供え物を捧げた。呪術師は踊り方をもう一度教えた。いささか妙な踊り方ではあったのだが、村人たちは呪術師がそう教えるからには間違いないだろうと納得した。雨の神様を喜ばせなくてはいけない。
 村人たちは雨乞いのダンスを続けた。
 空腹をこらえてはお供え物を出し続け、くる日もくる日も踊り続けた。踊りがだれると呪術師が叱りつけた。村人たちは叱られると気合を入れ直して、またしっかりと踊った。
 一か月が過ぎ、二か月が過ぎた。まだ雨は降らない。
 作物は実らない。食料はほとんど底を尽き、近くの山から食べられそうな草や木の根を探しては無理やりに腹へ流し込んだ。山の小動物は取り尽くし、虫でさえいとわずに食べた。
 痩せこけて骨と皮になった村人たちは栄養失調のためにばたばたと倒れ始めた。踊りの輪へ参加する人数は目に見えて減った。村人はもうしっかりと踊る気力がない。ただ惰性でふらふらと踊っている。
「なんだそのざまは! まじめに踊りなさい! 雨の神様はすぐそこまできておるんだぞ」
 ひとり、呪術師だけが気炎を吐く。呪術師はお供えのおさがりを食べる権利があったので、彼だけ健康体だった。残った村人たちは力なく呪術師を振り返る。もうろうとした村人たちの目は宙を泳いでいた。ここまでダンスして雨が一滴も降らないのでは、呪術師の祈祷に非がありそうなものだが、村人は誰も呪術師を疑わなかった。村人は素朴に呪術師を信じていた。飢えと渇きのために村人はとうとう死に始めた。
 さらに数週間が過ぎた。
 空は晴れ渡ったままだ。雨は降らない。村人たちはまるで死ぬために踊っているようなものだった。そして、とうとう最後の村人が息を引き取った。村には呪術師以外、誰もいなくなった。呪術師はがらんとした村を見渡して笑った。高笑いに笑った。
「わしは生き残った」
 ひとしきり笑った呪術師はせいせいしたとでも言いたげに満足そうな微笑みを浮かべた。
「あほどもめ。ダンスを踊ったところで雨が降るわけではなかろうに。わしにそんな力などあるはずがないわ。これまで何度か雨乞いがうまくいったのは、たまたま雨が降ってくれたからよ。これで村人すべての財産はわしのものだ。土地も家も銀の指輪も首飾りも、みんなわしだけのものだ。なによりこれだけの供え物の食糧があれば、わしはたらふく食うことができる。後のことはまたあとで考えよう」
 なんのことはない。村人の尊敬を集めた呪術師は、雨乞いのダンスという達成不可能な課題を無理やり村人へ押し付け、達成できないとやり方が悪いと罵っては責任を村人へなすりつけ、自分が肥え太って生き延びることしか考えていなかった。
 雨の神様は沈黙したままだった。


(2016年9月28日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第378話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/


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