風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

キャベツの匂い (連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第431話)

2020年02月22日 06時00分15秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』
 上海人の奥さんの配偶者ビザが取れたので先月から東京へ呼び寄せて一緒に暮らしている。家族で暮らせるようになってほっと一息といったところだ。
「日本のキャベツは野菜の匂いがちゃんとするわね」
 奥さんが近所のスーパーで買ってきたキャベツを切りながら言った。
「中国のキャベツは防腐剤の匂いがきついもの。日本のキャベツは安心ね」
 中国には野菜を洗うための洗剤がある。野菜の農薬や防腐剤を洗い落とすための洗剤だ。この洗剤はどのスーパーへ行っても必ず置いてある。そんな農薬落としの洗剤があるほど中国の野菜にかかっている農薬や防腐剤はきつい。なかには劇物のホルマリンに漬けて防腐処理するところもあるという。たしかに中国の野菜は丈夫だった。なかなか腐らない。ちなみに、中国のスーパーでも有機野菜を販売しているけど、奥さんは有機野菜のキャベツも防腐剤の匂いがするので買わなかったという。有機野菜と銘打っていても信用はできないのだ。
「日本のトマトもきちんとしているわ」
 奥さんは言う。
 中国のトマトは妙なでっぱりがあったりするが日本のトマトにはない。でっぱりはトマトに成長促進ホルモンを注射したからなのだそうだ。そういえば、畑で爆発した中国のスイカの画像を見たことがある。スイカの甘味を増すために成長剤を注射した結果、糖質が増えすぎてスイカが内側から爆発してしまうのだ。成長促進ホルモンでドーピングした野菜はやはり気持ちいいものではない。
 もちろん、日本の農作物もまったく問題がないというわけではないけど、中国にくらべればまだましといったところだろうか。野菜は毎日口にするものだから安心なほうがいい。ともあれ、奥さんは日本の野菜は防腐剤の匂いがしなくていいとよろこんでいる。


(2018年9月9日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第422話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/

チャイニーズポップスの流れる部屋

2020年02月11日 18時10分01秒 | 詩集


 君がかけるチャイニーズポップス
 夕焼けに輝く
 東京スカイツリータワー
 下町のマンションで始めた
 ふたりの新しい暮らし

 君がかけるチャイニーズポップス
 僕たちで出会ったあの春の日
 上海の喫茶店で流れていた
 かろやかなラブソング
 素敵な歌声

 君がかけるチャイニーズポップス
 アイロンの匂いはあたたかく
 君はワイシャツのしわをのばす
 ふたりの暮らしのしわをのばす
 僕はそれを着て勤めに出かける

 君がかけるチャイニーズポップス
 夕闇に浮かぶ
 東京スカイツリータワー
 タワーから見た夜景はきれいでしたね
 異国の暮らしはどうですか?
 東京の街は好きになれましたか?

 君がかけるチャイニーズポップス
 ありきたりの倖せに酔いしれて
 明日もふたりで見る夢の続き
 僕たちだけのささやかな夢

 ほんとうの倖せは
 ふたりでいること
 ずっとずっと
 いっしょにいること
 君がかけるチャイニーズポップス
 僕も口ずさむチャイニーズポップス


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