風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

会社で御飯を炊いてはいけません!(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第313話)

2016年02月29日 21時20分00秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』

 勤め先には社員食堂がない。
 火を使って火事になってはいけないから、テーブルだけ並べた食堂があって、みんな出前の弁当を取ったり、手作り弁当を持ってきたりして食べている。
 中国人はあたたかいものしか食べないから、食堂の電子レンジでみな自分の弁当を温める。たとえば、日本の駅弁のような冷えた飯は受け付けない。僕がコンビニで買ったおにぎりを食べていると、どうして温めないのと不思議そうな顔をしたりする。僕は冷えた御飯がけっこう好きだったりするのだけど。
 電子レンジでは当然一つずつしか温めることができないから、順番待ちでなかなか食べ始められない人がでてくる。そこで、総務が業務用の大きな蒸籠を買ってきた。四段くらいの大きな蒸籠のなかに弁当を並べれば、いっせいに温めることができる。とても便利だ。
 ところが、蒸籠を導入したとたん、料理を始める輩が出てきた。十一時くらいになると机を離れてこっそり食堂へ忍び込み、野菜を切って容器に入れ蒸籠のなかへ置いていたりする。米を洗って、蒸籠に置く奴もいる。お昼時には蒸籠で蒸した料理やお米がふっくら仕上がるというわけ。
 さすがに注意して料理はやめさせたけど、お米を炊く人はまだいる。
「やっていいことと悪いことの区別がつかないから」と日本人の総経理(社長)はあきらめ顔だった。
 そりゃ、誰だって炊き立てのおいしい御飯を食べたいものだけどねえ。



(2014年12月14日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第313話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/


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