風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

うつせみ

2015年09月24日 21時15分15秒 | 詩集

 秋のプールサイド
 消えた波しぶき
 バスタオルを羽織った君は
 あの人を待ち続けて
 待ち続けて

  水面に映る白い水着
  きつくにらみつけ
  グラスを投げつける
  鏡が割れるように
  恋が砕け散る

 愛されたのは影だった
 抱かれたのも影だった
 醒めない嘘をさまよう
 抜け殻のまま立ち尽くす


 夏の香りを残して
 口ずさむ恋唄
 もう二度と戻ってはこない
 あの人を恋焦がれて
 恋焦がれて

  水面に揺れる白い水着
  ただありのままに
  愛されたいと願った君は
  焼けた素肌を
  色褪せるままに

 口づけられたのは影だった
 傷つけられたのも影だった
 美しい夢にうなされる
 息をつめ立ち尽くす




(了)


浮気は許しませんっ(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第301話)

2015年09月05日 23時15分30秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』
 
 中国人の知人A君は、奥さんの管理がたいそう厳しい。
 A君が出張から帰ってくると、家で待ち構えていた奥さんがA君の背広の匂いを嗅ぎ、ポケットをすみからすみまで調べ、鞄のなかもすべて検査するそうだ。もちろん、浮気していないかどうか、出張先で悪い遊びをしていないかどうかのチェックである。ここで妙なカードやレシートが見つかるとアウト。
 無事に持ち物検査をパスしても、これだけでは終わらない。
 奥さんはやおら服を脱いで裸になる。
 ――わたしとしなさい。
 ということだ。
 こうして、奥さんはA君の実際の状態を現物確認する。
 ここでA君ががんばることができれば、検査合格。もし、がんばれずに成果をあまり出せなかったりすると、
「あなた、出張先でなにをしてたのよ! ほんとに出張してたの? 若い女と浮気してたんじゃないでしょうね」
 と詰問されることになる。
 この話を聞いた時、なんて厳しい奥さんなのだろうとびっくりしてしまった。中国人の女性は独占欲が強くて、旦那の浮気を非常に警戒するけど、これほどまでに厳しい話は初めて聞いた。出張でくたくたに疲れている時もあるだろうに。出張から帰ってすぐにまたひと仕事とはお気の毒様。
 ところが最近、飲み屋で知り合った中国人B君の話を聞いて、A君の奥さんが厳しくする理由がわかった。B君は出張へ行くたびに、スマホのアプリを使って女の子を探すそうだ。浮気専門のアプリがあるので、出張先でダウンロードして女の子を探し、出張から帰る前に、奥さんにばれないようにアプリ自体を削除してしまうのだとか。しかも、B君は出張へ行く前に女の子を探しやすい場所を調べ、わざわざ女の子をつかまえやすいホテルを選ぶという入念さ。一杯飲みながら出張先でのアバンチュールを語るB君はすこぶる楽しそうだ。次からつぎへと、中国各地のいろんな女の子の写真を見せてくれる。たしかに、きれいな子が多かった。あれだけたくさん、きれいで若い女の子と遊べたら楽しかろう。
 そりゃ、厳しくチェックしたくもなるわな。
 




(2014年6月22日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第301話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/


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