風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

シーラカンス

2014年09月04日 07時30分45秒 | 詩集
 
 進化にも
 進歩にも
 縁はないが
 これでいいのよ
 シーラカンス

 生きた化石と
 呼ばれても
 なんと言われても
 それでいいじゃない
 シーラカンス

 まずい肉だと
 吐き捨てるように
 言われても
 そのほうがいいのよ
 シーラカンス

 四億年前から
 変わらないことを
 まぬけだからと
 嘲る奴もいるけど
 それはしょせん
 人の言うこと

 四億年も
 変わらないことを
 ぶれないと
 褒める奴もいるけど
 それはしょせん
 人の言うこと

  シーラカンスは
  シーラカンスだから
  シーラカンスでいるわけで

  誰に頼まれて
  シーラカンスを
  やっているわけでもなく
  まったり生きたいから
  シーラカンスに
  なったわけでもなく

  シーラカンスは
  私は誰でしょうだとか
  ここはどこでしょうだとか
  俺が俺がと
  存在の証明に
  肩肘張ったりせず

  シーラカンスは
  ただシーラカンスで
  あるわけだから
  ただシーラカンスを
  シーラカンスとして
  現象しているだけだから

 進化にも
 進歩にも
 縁はないが
 それがいいのよ
 シーラカンス



小説家になろうサイト投稿作品
http://ncode.syosetu.com/n8787cd/

悲しきビーメラ星 ~『宇宙戦艦ヤマト』から(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第250話)

2014年09月01日 16時00分15秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』
※『宇宙戦艦ヤマト』第十六話『ビーメラ星、地下牢の死刑囚!!』と『宇宙戦艦ヤマト2199』第十六話『未来への選択』のネタバレを含みます。ご注意ください。

 

『宇宙戦艦ヤマト』のなかでは地味なエピソードだけど、子供の頃から第十六話『ビーメラ星、地下牢の死刑囚!!』が好きだった。なかなか奥の深い話だ。

 ビーメラ星には昆虫の形をしたヒューマノイドの知的生命体が住んでいる。ビーメラ星人はどうも蜂から進化した生命体のようで、女性は女王がひとりいるだけであとはみんな男だ。技術的なレベルは数千年前の地球文明程度といったところだろうか。
 このビーメラ星はガミラスの属国だ。属国の悲しさで、五百日毎にビーメラ星人の体から搾り取ったローヤルゼリー(ビーメラ星人の体にはローヤルゼリーがたくさん含まれている!)をガミラスへ貢物として収めなくてはならない。ビーメラ星人が同胞をつぼ型の大きな碾(ひ)き臼のなかへ突き落とし、その体を挽き潰してローヤルゼリーを搾り取るシーンが描かれていた。挽かれる人たちの叫び声が響き、壷からどろっとしたローヤルゼリーが出てくる。なんとも悲惨な光景だった。
 この星に調査に出かけた森雪とアナライザーがビーメラ星人に捕らえられ、殺されようとしていたちょうどその時、ガミラスの輸送艦がローヤルゼリーを受け取るためにやってきた。
 ビーメラ星人は広場で音楽を鳴らして輸送艦を歓迎する。だが、ひとりの老人がガミラスを追い払えと立ち上がった。ビーメラは我々のものであってガミラスのものではないと。民衆も老人に同調して、ガミラスを追い払えと騒動になる。
 老人は、おそらくガミラスから供与されたと思われるビーム砲でガミラスの輸送艦を撃ち落すよう女王に迫る。女王はしかたなくビーム砲を操作するのだが、脂汗を流した女王はビーム砲をくるりとまわし、独立運動のために立ち上がった老人へ向けてビームを発射して撃ち殺す。
 ガミラスを裏切らずにすんだと女王がほっとひと息ついたのも束の間、ビーメラ星に到着した輸送艦は爆発してしまった。実は、ビーメラ星の到着前、輸送船はヤマト艦載機(ブラックタイガー)の攻撃を受け、なんとか逃れたもののビーメラ星に着陸した時にはもう爆発寸前になっていたのだ。再び立ち上がった民衆は女王へ襲いかかり、女王の親衛隊と乱闘になった。その結末は描かれていないけど、たぶん民衆が勝ったのだろう。

 このエピソードには帝国の属国になった国の政治の有り様がコンパクトにまとめられている。
 属国の支配者は帝国の力を背景にして民衆を支配する。属国の支配者の権力は帝国から与えられたものだ。ビーメラ星の女王はガミラスからビーメラ星の技術水準をはるかに越える武器や通信機器を与えられ、その力をもって民衆を制している。
 性質の悪いことに、属国の支配者は自らの権力を維持するために同胞を殺してまでも帝国へ貢物を捧げようとする。帝国への忠誠を証明して権力を維持するため、そうして己の富と命を守るため、属国の支配者は同胞を搾取する側にまわるのだ。ビーメラ星ではビーメラ星人を殺してその体からローヤルゼリーを搾り取っていたけど、現実の世界では民衆に重税を課したり、ろくな賃金を払わなかったりとあの手この手で同胞に食うや食わずの生活をさせる。
 政治の重点が自分たちの暮らしをよくするためにではなく、帝国の言い成りになって貢物を捧げることに置かれるのでは、民衆はたまったものではない。属国の民衆が立ち上がって、政治指導者に帝国の傀儡になるのはやめて自分たちの味方をせよと迫るのは当然のことだ。
 しかし、残念ながら属国の犬となった支配者が同胞のためになにかをすることはごく稀だ。属国の支配者は己の権力と富と命のことしか考えていない。民族独立運動が広がってしまっては己の権力が維持できなくなってしまい、富と命も失ってしまう。ビーメラ星の老人を殺してしまったように、属国の支配者は民族独立運動の指導者たちを圧殺する側に回る。属国の支配者にとって重要なのは権力の拠り所であって、自国の民衆ではない。悲しいかなそれが現実だ。
 ビーメラ星の有り様は世界の様々な国の政治状況にあてはまる。日本もその例外ではない。

 リメイク版の『宇宙戦艦ヤマト2199』ではビーメラ星人は絶滅してもういないことになっていて、オリジナル版とはまったく違う話になっていた。残念だなと思う。中身のあるいいエピソードなのだから、ぜひそのまま残しておいてほしかった。もちろん、僕が幼稚園の頃に観た時は残酷でもの悲しい話だなと思っただけだったけど、大人になってからそうだったのかとわかることもある。社会派のエピソードも子供心に響くものがあるのだから。





(2013年8月21日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第250話として投稿しました。 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/

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