風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

朝のヒゲ剃りといってきます

2021年08月17日 05時45分45秒 | 詩集

 シャボンを泡だてて
 たっぷりと顔に塗り
 ヒゲを剃る
 君は後ろから
 鏡を覗き込む
「がんばって働くのよ。
 私のために、
 稼いできてね」
 目を細め
 嬉しそうに
 ほゝえみながら
 君がささやく

 たいした稼ぎでもないのに
 期待する君
 まあ
 ちょっくら
 がんばってみるか
 朝の眠気が
 シャンとしたりして

 狭い家だけど
 倖せはここにある
 倖せがここにある


 顔を洗って
 タオルで拭き取る
 さっぱりしたのか
 よくわからない
 年相応にくたびれた顔
「きれいにするのよ。
 きれいにすれば、
 ラッキーがくるのよ」
 君は目を細め
 嬉しそうに
 青い肌水を
 僕の頬に塗りたくる

 君と出会えて
 僕は十分にラッキーだから
 これ以上
 望むものはなにもない
 さはさりながら
 僕が
 この家の大黒柱だと
 気合を入れて
 自分に言い聞かせたりして

 狭い家だけど
 倖せはここにある
 倖せがここにある

 きれいになった頰に
 キスをおくれよ
 いってきま〜す

超能力で直ったプラレールの電車(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第457話)

2021年08月12日 12時47分27秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』


 子供の頃、スプーン曲げで一世を風靡した超能力者ユリ・ゲラーのテレビ番組を観たことがあった。ユリ・ゲラーが来日し、生放送で透視術や念動力といった超能力を次々と披露する。番組が大詰めを迎えたところ、ユリ・ゲラーは、
「壊れた電化製品を手に持ってテレビの前に坐ってください。これから念力を送って直します」
 という。
 一緒にテレビを観ていた弟は、急いでモーターが壊れたプラレールの電車を持ってきて、テレビの前に座った。弟は欲張って両手にプラレールの電車を持ち、さらに右手と左手に持った電車の間に、もう一両の電車を挟んで、計三両のプラレールの電車を持った。
 僕は超能力を信じなかったので、手ぶらのままなにもせずにそのままぼんやりとテレビを観た。僕は友達とスプーン曲げを試したことがあったのだけど、みんな簡単に曲がった。スプーンを擦った時の摩擦熱で曲がっただけのことだ。超能力でもなんでもない。スプーンが曲がるのは楽しかったけど、超能力ではないと知ってちょっぴりがっかりした。
「みなさん、手に持った電化製品が直りますようにと念じてください」
 テレビ画面の中の超能力者ユリ・ゲラーが厳かに言って念力を送る。弟は目を瞑って念じる。プラレールが直りますようにと口の中でぶつぶつとつぶやく。
 ユリ・ゲラーがさあ直りましたと言った後、さっそく、壊れたはずのプラレールの電車のスイッチを入れてみた。
 なんと、弟が右手と左手に握っていた二両の電車が走り出した。右手の電車と左手の電車の間に挟んでいた電車は動かなかった。ユリ・ゲラーの言った通り直接手に持った電車だけが直った。諦めていたプラレールの電車が超能力で直って弟は大はしゃぎだった。
 この一件があってから、僕は超能力をすこしだけ信じるようになった。トリックを使ってテレビの向こう側からプラレールの電車を直せるはずがない。特殊な能力を持っている人がいることはいるのだと思う。
 なんとも不思議な夜だった。




(2019年9月1日発表)

 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第457話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/

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