風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

聖なる夜に君の影を踏んで

2020年12月24日 18時25分50秒 | 詩集

 君の影を踏んでつまづく
 みっともないったら
 ありゃしない
 ミルク色したニットの帽子
 やさしい天使を気取った君は
 手練れの小悪魔さ

 通りすがりの教会から
 こぼれるハーモニー
 きよしこの夜
 神様がいるなら
 表へ出てきて
 助けておくれ
 お得意の奇蹟ってやつを
 ひとつ見せておくれよ

 とめられない愛を
 打ち明けたいのに
 君はどうしても言わせまいと
 棘を含んだ微笑で僕を刺す
 ひたすら消耗するだけの
 無意味な駆け引き
 僕の尖った角をへし折って
 君は愉快かい?

 君を抱きしめたい
 嵐のように叫びたい
 愛させておくれ
 君のえくぼに
 キスさせておくれ
 こんなに素敵な夜なんだから
 こんなに素敵な君なんだから

 聖なる夜は
 冬の星座が煌めく夜
 どこもかしこも
 愛があふれているのに
 君の影を踏んでつまづく
 みっともないったら
 ありゃしない

白い風になって

2020年12月10日 06時40分45秒 | 詩集
 白い風になって
 あなたの
 ひとりの部屋へ
 愛を届けたい

 離ればなれに
 暮らしているから
 眠れない夜は
 窓を開けます

 あの日
 あなたを
 送って走った
 空港までの
 海沿いの道
 潮の香りと
 陽に焼けた
 あなたの横顔

  溶け合う
  風になれる
  ふたりのその日を
  夢に描いて


 白い夜に
 頬をよせて
 あなたのぬくもり
 思い出すの

 凍える星のように
 わたしも
 愛を識(し)って
 震えています

 あの日
 あなたが
 口づけてくれた
 空港のロビー
 人混みのなか
 わたしを見つめる
 あなたのまなざし
 愛のささやき

  溶け合う
  風になれる
  ふたりのその日を
  夢に描いて

キャビンアテンダントの安全模範演技(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第440話)

2020年12月01日 06時30分45秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』

 広東省広州から成田空港行きの日系航空会社の飛行機に乗った時のことだった。
 離陸前になって、いつものようにキャビンアテンダントが安全の模範演技を始めた。僕はそれをぼおっと眺めた。右側の通路は日本人のキャビンアテンダントで、左側の通路は中国人のキャビンアテンダントだった。
 キャビンアテンダントは救命胴衣をつけ、筒に息を吹き込んで膨らませ、紐を引っ張って締める。日本人のキャビンアテンダントと中国人のキャビンアテンダントは同時に同じ動作をしているのだけど、所作が違った。日本人のキャビンアテンダントは紐を引っ張った後、指先までぴんと伸ばして綺麗に見せる。茶道や華道のお作法のような美しさだ。中国人のキャビンアテンダントのほうは、ごく普通というか、指先まではぴんと伸ばさずにだらりとさせていた。
 救命胴衣がきちんとつけられればそれでいいわけだから、指先までぴんと伸ばす必要はない。指先をぴんと伸ばしたからといってそれで安全性が高まるわけでもないのだが、それでも日本人のキャビンアテンダントはできるかぎり綺麗に見せようと努力する。見ていて快い。航空会社が細かいところまでキャビンアテンダントを教育しているという証でもある。こんな細部(ディテール)へのこだわりが、日本の「おもてなし」といったものにつながるのだろう。
 ちょっとしたしぐさから文化の違いが垣間見えた。




(2019年2月17日発表)

 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第440話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/

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