出張で出かけるために上海の浦東空港へ行った時のこと。
朝七時、浦東空港に着いた。入口の外の灰皿でたばこを吸っていると、東洋人のおじさんに、
「日本人デスカ」
と外国訛りの日本語で話しかけられた。
「そうです」
と答えると、
「アア、日本人。韓国人カトオモッタ」
とおじさんは言い、
「私ハ、北朝鮮人」
とやおら財布からお札を取り出す。
「偉大ナ指導者」
北朝鮮のお札は初めて見たけど、確かにかの国の偉大な指導者の肖像が印刷してある。中国のお札には毛沢東の肖像が印刷してあるけど、北朝鮮も同じことをしているのだなと思いながら、珍しさに釣り込まれて覗き込んだ瞬間、
「アゲル」
とおじさんは僕のズボンのポケットにお札を突っ込もうとした。
「要らない」
僕は慌てて逃げた。
片言の日本語を操るくらいだから日本へ行ったことがある人なのだろう。親切でくれようとしたのかもしれないけど、知らない人からお金をもらうわけにはいかないから。
(2016年10月25日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第381話として投稿しました。
『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/