ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅      薬物後遺症と心の傷・・・38

2012-04-12 | 3章 デリー中央精神病院・入院記録
   12月19日(火)(入院して16日)

 スタッフをやっていた時は感じなかったが、こうしてスタッフを断って現実に戻っていくと何かしら孤独感に囚われる。日本に帰っても待ってくれる人もいない、自分の家庭も自分の部屋も残っているものは何もない。孤独の淋しさを思う。どうしてこんな歳まで生きてしまったのか、そして又これから先、何年生き続けなければならないのか。毎日同じ事ばかり書いている、同じ事ばかり考えている。精神病院のベッドの上でぼくは苦しむ。
 入院して16日目になる。禁断からの回復は50パーセントぐらい、後2週間で抜け切れるのか。これからどうするかは、その間に考えよう、粉をやるのかどうか今は何とも言えない。ただここまで苦労して粉を断ってきたのだから切り抜いてしまいたい。
 今日は久し振りに身体を洗った。気分は少し良いのだが自由のない病院生活にストレスが溜まる。ドラッグをやっていれば淋しさなど感じない、スタッフは少しずつ人間を殺していく。刑務所に収監された11ヶ月間はそれがあったから耐えられた、スタッフをやり続ければ日常の苦悩など感じないですむ。粉が脳を破壊しているのをぼくは知っている。毎日少しずつ殺していくのならそれはそれとして今の自分に相応しいようにも思える。『人間失格』のダダイズムか。病院での1日がだらだらと過ぎ去って行く。やはり粉をやるしかないのか、現実を直視し苦悩しながらも強く生きていく、それだけの気力がぼくにあるだろうか、ある様には思えない。しかしどうしてこんなに重く暗い日々が続くのか、いつまで。
 アユミは昨日から外出していた。グリーンGHに置いてあった荷物の整理や、大使館と帰国のための話し合いがあったようだ。明日、20日夕方のフライトで帰国することが最終的に決まった。アユミとぼくは最後の夕食をした。言葉は少ない。タバコを一服すると彼女はぼくの部屋から出て行った。廊下にアユミの足音がする。アユミの旅はここに終った。
 
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