ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅        遠い道・・・・・26

2014-10-16 | 4章 遠い道・逃亡

敷地内に大型護送車が4台停車しているが人の姿はない。収監者達は既に留置場に入れられ、審理が始まるのを待っている。隣り合わせの2つの留置場に約200名の収監者達がひしめいている。座る余裕はない、皆は立って呼び出しを待つ。刑務官の呼び出しが始まると、1人また1人と鉄格子のドアを潜って出て行く。1人の収監者に1人の刑務官が付く。手錠や腰紐は使わない。右手を出し5本の指を広げると、その間に刑務官の左手の指が入れられる。ぎゅと手を握られるとそれだけで逃げられない。1時間も経つと留置場内は空いてくる、ぼくは座り込み壁に凭れて順番を待った。何故だか呼び出されるのはいつも遅い。ぼくが刑務官に連れられ法廷へ行くと、必ずマリーが面会にきて待っていた。彼女はバッグからお金を出し刑務官にバクシシすると当然のようにお金を受取った刑務官はぼくの手を離してくれる。彼女から煙草とマッチを受取り指に挟んだ煙草を、ぼくはゆっくりと吸い込む。玄関前で煙草を吸いながら、ぼくはその頃を思い出していた。
 次回、1月15日の出頭を命じられた。裁判所の建物を出て広場を通って裁判所ゲートへ向かって歩いた。左側の壁は留置場の後ろ壁だ。鉄格子の高窓がある、その中にぼくはいた。ぼくはもう2度とここへは戻って来ない。玄関横の水屋からコップを受取り水を飲んだ。
 バザールを歩いているとアメリーが声を掛けてきた。マリーとフィリップスがぼくを探していたという知らせだ。アメリーは小柄で人の良いナイジェリア人だ、奴もリリースされていたのか。しかし今日ぼくが裁判所へ出頭しているのはマリーも知っているはずだが、急いでホテルへ戻った。スタッフを吸っている場面を彼女には見られたくない。吸い終わった頃に2人が来た。2枚のチケットをぼくに渡しながらマリーは今日のチケットは買えなかった、これは明日、9日のチケットだと平気な顔で言う。今夕ぼくは出発するつもりで緊張感を高め逃亡という階段を上り詰めようといた。その階段を一つ踏み外した、ぼくはそんなバランスを失った精神状態になってしまった。しょうがない、この切符しかないのだから、気持ちを入れ替えよう。ノープロブレム、何が起こってもおかしくないインドだ。チケットを買ってきたんだから文句ないでしょう、という彼女の顔を見ていると、まぁそう神経質になることはないか。今日はまだ体調が良くない、明日の出発でちょうど良いのかもしれない。
「有り難う、マリー」
ぼくは釈然としないが一応、彼女にお礼を言った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする