「レートは幾らだ」
「38ルピーだ。これ以上は下がらない」
信用できるレートを出してきた。ぼくは刑務官に連行されて東京銀行に行った以外、1年以上、銀行で両替をした事がない。がたぶん銀行両替のドル持込みで35ルピー、逆両替だと36~37ルピーが相場だろう。ブラック・マーケットで1ルピーしか乗せていない。話しがあまり美味すぎる、偽札を掴まないよう用心することだ。
「紙幣の額面は?」
「1~100ドルどれでも欲しい紙幣を出す。1万㌦でも両替するぞ」
嫌味な野郎だ。どこにそんな大金がある、あるわけがないだろう。1万㌦とはったりを噛まされてぼくはちょっと小さくなり
「カリュキュレーターを貸してくれ」
ぼくは細々と計算をした。2000㌦だと残りのルピーが少な過ぎる。1900㌦だと72000ルピーでちょうど良さそうだ、それで話はついた。お互いにお金を交換しチェックする。ぼくは19枚の100㌦紙幣を手に入れた。偽札の見分け方は知っている、ぼくが入念に調べていると
「偽札は混ざってない。シーク教徒は信用で商売をしている」
「分かっているが一応、調べさせてくれ」
取引きは終った。ドルが欲しかったらいつでもきてくれ、と言うサダジと握手をしてぼく達は店を出た。マリーにはぼくのお礼の気持ちとして少しお金を渡した。言葉のお礼なんて何の役にも立たない。この取引きは本当に助かった。英和中辞典くらいの大きさと重さがたった19枚の紙幣に変った。それだけではない、最悪の場合はこのお金だけでも帰国する事ができる確実な保障をぼくは手に入れた。
「これでお別れね、トミー。気をつけて行くのよ」
「ありがとう、マリー」
別れ際、彼女はメモをぼくに渡した。
「日本に帰ったら、手紙をちょうだい」
「あぁ、そうする」
さようなら、マリー