国 境へ・・・1
出発
夕方、6・30分バッグを持ってホテルの部屋を出る。ぼくはもう一度部屋の中を見た。心が残る。いつまでもこの部屋にいたい、だがそれは出来ない。ドアを閉め真中の吹き抜けから階下を見ながら廊下を回った。2階へ下りると受付カウンター内にマネージャーがいた。まだ身体の調子が良くない、もう1度病院へ戻るが良くなったら帰って来る、彼にそう言ってホテルを出た。外は宵の口でバザールの通りは大勢のインド人達で賑っていた。早くホテルを出て良かった。革ジャンにジーンズそれに靴を履きバッグを持てば、どこから見ても旅仕度で目立ってしまう。駅の近くで良かった、アフリカンに会う事はないだろう。インド人達の流れに乗って早くデリー駅の中に入った方が良さそうだ。見張られてはいないだろうが時々、後ろを振り返る。少し神経質になっているのが自分でも分かる。通りや駅構内に立っているポリはインド人の取締りであって、外国人に職務質問やパスポートの提示を求める権限はない。
駅前の大通りを渡ると駅前広場だ。タクシーやオートリ力車それに旅行客で混雑している。デリー始発の夜行列車は何本もある。南へはデカン高原を48時間で突っ走るマドラス急行や、東への幹線は聖地ベナレスや仏教聖地ブッダガヤ等を通ってカルカッタへ続く。この東北方面幹線はベナレス手前から、ネパール国境の中継地ゴラクプール駅へ北上するのがバイシャーリ急行だ。インドの夜行列車の2等寝台は一部を除いて硬い木製のベッドだ。上中下の3段が向かい合って並んでいる。ベッドの上と下は固定されているが中段だけ折り畳み式で夜になるとベッドが作られる。駅ビルに入ると正面の上の壁に大きなボードがある。そのボードに行き先や列車名、出発時間と出発プラットホーム番号などが書いてあり、それで自分の列車を確認する。
時間はまだ早いがプラットホームへ向かった。インドの駅には地下道はない。全て高架陸橋だ、そして高い。陸橋通路には冷たい風を避けて座り込んだインド人達で通りは狭くなっている。目的のホームへ下りると全席指定のはずだが既に多くのインド人がホームに敷物を広げ家族ごとに身を寄せている。インド人の家族といえば殆どが3世代だ。適当な場所に座り込みぼくは煙草に火を点けた。ネパールとの国境の辺地へ行く列車だからか派手な服装のインド人はいない。