国境へ・・・3
ホームを過ぎデリー駅を離れると、窓外は闇になった。ぼくは闇を見続けた。闇の中に逃亡の道筋が描かれている、ぼくはそれを見つけださなければならない。
列車内に目を移すと、前の座席に若者が座っていた。それとなく彼らの服装を見ると、どうも違和感がある。高級な物ばかりを身に着けている。革ジャン、ズボンと靴それらは全て新品だ。それにシャツは重ね着をしている。ネパールにも当然カースト制度がある。顔を見ると大体どのクラスのカースト出身者か、ある程度は分かるがどうもおかしい。ネパールへ帰るというのに楽しい話や、はしゃいだ雰囲気が感じられない。目立たないように抑えた素振りをしている。間違いない、奴らはネパール人の運び屋だ。衣服は身に着ければそれだけ荷物は少なくなる。黒い革ジャンを着てぼくの横に座っている奴がボスだろう。奴は少し前からぼくと接触する切っ掛けを見つけ出そうとしているように思える。荷物の少ないぼくを取り込みたいのか、ぼくがパスポートを持っていない事を奴らは知らない。お互い手の内を隠して腹の探り合いか、それぞれにやばい傷を持っている。これから先どうなるのか、お互いにまだ何も分かっていない。
夜9時頃、ベッドを作りたいのだが、とネパール人のボスがぼくに言う。ぼくは勘違いをしていたようだ。列車の進行方向を向かって座っている座席の下段と中段がぼくのベッドだと思っていた。マリーは前後の下段のベッド2枚を買ってくれていたのだ。向かいの3段ベッドは既に用意されている、その下段にぼくは荷物を移した。列車の後方を向く座席側に替わり、これでかなり隙間風から逃げられそうだ。状況は良くなった。
「2人の予定だったが、1人が来られなくなった。この切符を使ってくれ」
1人で2台のベッドは占有できない。ネパール人は4人で3ベッドの切符しか持っていない。インドの列車では乗車券2枚で1ベッドでも問題はない、1台のベッドで2人が寝れば良い。3人で1ベッドでも構わない。
「良いのか、助かるなぁ」
とボス、皆も喜んでいた。この事があってからぼくとネパール人の間はかなり接近した。各人のベッドが決まり寝床の用意をしている。革ジャンは脱いで奇麗にたたみ枕元に置いていた。