ババは吸い込んだ煙を男の頭の上へ向けてはき出す。男は「ど~れ」と言ってババからチラムを受け取ると、がぼっとチラムを吸いやがる。ぼくはじろじろと男を見ていたが、どう見てもこの男が来ている服はポリの制服だ。しかしチラムの扱い方、吸い方は素人ではない。ぶおっと口から煙をはき出すと
男はぼくの方を向いて「ほれ」とぼくにチラムを渡そうとする。ぼくは手を引っ込めた。これは罠ではないのか?奴からチラムを受け取ったらまずい、まずいに決まっている。ぼくが奴からチラムを受け取り吸ったところで御用だと捕まるかもしれない。ポリは自分で吸ってぼくを安心させ逮捕へ誘導しているのではないのか。ぼくはボスと言ってパスした。可笑しなジャパニーだな吸わないのかという顔をして奴はババにチラムを渡した。お前、何で吸わないのかとババも不信そうにぼくの顔を見る。ポリは2服すると「さて」と言って立ち上がりババと二言、三言話すと町の方へ歩きだした。
しかし何なんだあの野郎は、本当にポリなのか?ぼくはほげっと奴の後姿を見送る。早くチラムを回せ火が消えるとババの催促を聞いてぼくは我に返った。奴がいなくなってやっと吸う気になったぼくはババから回されたチラムを持っていた。あのポリの気合が入った吸い方に気後れしたぼくは少し落ち込んでいる。
「あの男は本当のポリかババ?」
と聞くとそうだと言う。インドとはおかしな国だ。ポリが制服を着て堂々とチラムを吸う。その制服を着た全国組織の中央であるデリー警察のポリの手によって、ぼくは2年後デリーで逮捕されることになるのだが、こんな不条理があって良いのだろうか。ノープロブレムのインドというのはこういう事なのか。ぼくは夕方の瞑想をするためアシュラムへ向かった。