ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅              ブラック・アウト・・・14

2012-08-05 | 2章 ブラック・アウト
夜中、喉と鼻に異常な刺激を感じてぼくは目が覚めた。壁に凭れ左側へずり落ちるようにして眠っていた。何が起こったのか?延ばした左手の先を見ると、ローソクの灯かりでも黒くなっているのが分かる。部屋の中には煙が籠っていた。身体を起こしベッドの真中辺りを見ると、白いシーツの黒い部分から煙を出ているように見える。やばい、ベッドから飛び降り電気を点けた。ベッドマットの真中辺りで円を描くような部分から煙が出ている。煙草の火が燃え移ったのだ。シーツを剥ぎ取りバケツに汲んだ水をコップ入れ、円の外周に沿うようにベッドマットに水を流し込んだ。窓を開けると煙は外へ流れ出している。扇風機を回すと煙は勢い良く外へ吐き出されていった。火は消えたようだが厚いベッドマットの中にはまだ火が残っているかもしれない。少しずつ水を滲みこませた。
 ぼくはのろのろと椅子に座り込もうとして、すくっと立ち上がった。そっとドアを開けホテル内の様子を窺う、吹き抜けに少し煙が残っているようだが静かだ。誰も気付いてはいない。音がしないようにドアを閉め鍵を掛けると、ぼくはぐったりと椅子に座り込んだ。部屋の中は惨憺たる状態だ。何という事をしてしまったのか、火の点いた煙草を指に挟んで眠るなんて。
「火事になった」
茫然としたフレッドの顔が浮ぶ。ぼくもそのような顔をしているのだろう。
刑務所内で白黒のテレビを1300ルピーで買った。それから考えるとベッドマットの値段は500ルピーくらいだろう、買い換える事については問題はない。だがホテル内で火を出した事の責任を追及され、ホテルを追い出されるのは困る。ベッドマットを調べてみた。表面は広く焦げているが火はそんなに深くまで焼いてはいない。幸い気付いたのが早かったのだろう、ひっくり返せば分からなくなりそうだ。シーツの焼けた穴も大きくはない。その部分が見えないようにベッドと壁の間に押し込んだら見えなくなった。シーツはぼくが要求しない限り1ヶ月でも交換しない、ぼくがチェックアウトした後に交換する。何時までここにいるか分からないが、もう2度とキーランに来られない事だけは確かだ。臭いはインセンスを焚けば分からなくなる。眠る事は出来ないだろうが夜が明けるまで外には出られない。ベッドの上で横になった。

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