ダイクの7房にいるチョコマが執拗にナンシーの居場所をぼくに聞いてきた事があった。
「ナンシーの事など何も知らない」
ナンシーはマリーと一緒にぼくの出頭日、裁判所に来てくれるがどこに住んでいるか等ぼくは本当に知らなかった。知っていたとしても喋らないだろう、奴らの問題だ、深入りすべきではない。
「マリーからナンシーの居場所を聞きだしてくれ、ナンシーはキシトーのワイフだ」
チョコマは高ぶる感情を抑えて、
「キシトーはインホーマーだ、奴の密告で俺と彼女は逮捕された」
シンガポール人の彼女は女性専用の第1収監区に収監されていた。
「奴は絶対に許さない」
この事は全てのナイジェリア人が知っている。キシトーは早くここから出たかったのだ。恐らく警察は直ぐ出してやるとそのような約束をキシトーとしていたのではないだろうか。これはぼくの推測だが多分、間違ってはいないと思っている。キシトーは明日にでもデリーを離れるだろう、奴にとってデリーは危険過ぎる。ベッドで横になったフィリップスは身動きもしない。何を考えているのだろうか。
3月に入ってリリースが続いた。
イギリス人・・1名 イタリア人・・2名
ドイツ人 マーシャル アフガン人 プラン
新たに収監された者
Cバラック4房 クリス(フランス人)
Bバラック シンガポール人
フィリップスが精神的に立ち直ったら、ぼくと奴の釈放の可能性を新たに考え始めなければならない。