最近色々とインプラント治療の報告を聞かされたり、読まされることが増えて来ているのですが、非常に心配なことがあります。
それは補綴、インプラントの上に取り付ける人工の歯、作製物の形態等でのことです。
最も気になるのが、舌への配慮、舌房と言うのですが、歯列の内側のスペースが狭い、舌が窮屈になっているのではないか、と思われる歯の並び方、作製の仕方をされている症例を散見するのです。
非常に気になります。
舌と言うのは、大切な器官で、自然の形態で納まっていることがとても重要です。
私は元々総義歯の専門家なので、そのことを凄く気にして歯を作製するように、必ずしています。
近頃散見するケースでは、それが狭い、窮屈だろうと思われるのが目立つのです。
このようなことが起きる原因は私には良く分かります。
何故か?
それは、骨の形態に沿ってインプラントを植立する、骨に合わせて歯を作製する、と言うことが為されているからです。
歯を失うと、必ず顎の骨は痩せます。
下顎の骨が痩せて行くと、頬側の骨が失われて舌側の方が骨が残る状態になります。
それに合わせてインプラント植立をすると、インプラントが内側に傾斜して、舌のスペース舌房を狭くする状態に成り易いのです。
これが起きてしまうと、非常に拙いです。
せっかくインプラント植立が上手く行っても、歯が内側にあることで、患者さんの顎の状態は苦しくなります。
インプラントで歯を再生したのは良いけれど、何か上手く噛めない、顎の状態が良くない、と言う苦情を最近本当によく聞きます。
その原因の大半は、これが理由ではないか、と私は危惧しています。
それと同じようなことで、上顎の場合、傾斜して下顎とは逆に外側に開いてインプラントが植立してしまって、頬側に当ってと言う苦情も稀ですが聞かされます。
総義歯の専門家である私は、常に歯のあるスペース、存在して快適な3次元的な位置、と言うのが気になります。
なので、私は余り強く気にするまでもなく、さり気なく補綴、人工の歯の納まる位置とインプラントが自然に繋がる部位に植立するのが習い癖になっています。
そのお蔭なのだと思いますが、私自身のインプラント治療20年以上経験では、顎の状態の問題を起こした経験は皆無なのです。
しかし、巷で聞くと最近そう言う話を本当に良く聞く。
これは非常に拙いことだと思います。
歯を作製する時には、必ず何処に納まるのか、これが非常に重要です。
ですから、総義歯の素養を持っていることがとても大切になるのです。
そのことを配慮して歯を並べているのだろうか?と心配になることが現実に増えている、これは間違いがないようです。
インプラントは骨と上手くくっ付けば動きません。
そうなると、窮屈な状態は解消しないのです。
これは異常な緊張を舌に強います。
そうなると、下顎の位置とか感覚でおかしくなってくるのです。
舌は、自然に安静、安寧でいられる形態にしなければいけません。
それを犯す人工物は禁忌なのです。
それは厳守されなければいけません。
そう言う目で患者さんの口の中を見る、この癖が患者さんを守ります。
歯が何処に来るのか?その為には何処にどう植立するべきなのか?その為の外科手術はどうすれば良いのか?
こう言う目で見ると、インプラントの立つ場所は殆どの場合ピンポイントです。
そこに寸分違わず植立すること、これが非常に重要です。
最近流行り始めている咬合の理論に基づく理想的な歯並びの位置関係は、私には凄く歯が立っている、舌のスペースが侵されている、そんな風に見えて仕方がないです。
特に部分義歯の作製で、そう言う人体の自然の納まる形態を無視して形態学的、金属の強度とか義歯がどれだけ持つのか、に視点を強く持っているものが気になります。
あれではモノとしては強固でしょうが、入れている人の感覚、特に舌の感じが快適ではないでしょう。
インプラントも基本は部分義歯です。
この正しい形態の捉え方、自然に沿うと言う理解の仕方が足りない、そんな気がして仕方がないです。
昔から言われているデンチャースペース、舌と頬の内側の自然に歯が納まるスペースは何処なのか。
そう言う視点を正しく持たれることを強く勧めます。
今の流行りは窮屈です。
多分、外国の理論を日本に持って来ているので、外人向きのものを日本人に合わせてしまっているからだ、と思います。
日本人には日本人の歯並びがあります。
骨格からして違うのですから。
これでは、かつてナソロジーと言う外国の咬合理論を持って来て、日本人に無理に合わせて治療して、顎関節症を起こしてしまった過去と同じ轍を踏みかねません。
私はそのことを非常に危惧します。
しかも現代は動かない、外せないインプラントですから、もっと深刻な問題を惹起しかねないでしょう。
なので、私は提案します。
今こそ、チャンとした総義歯の修得が鍵を握る、と。
総義歯治療を取得するには、この舌房との関係が鍵になるのです。
舌を上手に扱うことで総義歯の納まりは格段と違って来ます。
成書でお勧めは、神様加藤武彦先生、尊父を超えられた村岡秀明先生、天才阿部二郎先生です。
歯が何処に来るのか?
口腔内のスペースの埋め方、納まり方。
とても勉強になります。
インプラントの取得にはインプラントの勉強だけでは全く足りません。
従来からある歯科治療の原則、快適な口腔内の再建、その維持を図るにはの知恵、技術が大きく意味を持つのです。
インプラントだけ特別視するのは奇異です。
あくまでも歯がない所を埋める人工物でしかない。
その視点を知れば、従来の歯科治療の見直し、レベルアップこそ何よりも重要だと明言して終わります。
参考になるかどうか分かりませんが、私の総義歯の写真、再掲しときます。