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マーク・ゲイティス&イアン・ハラード共演舞台"The Boys in the Band"「真夜中のパーティー」を観る

2016-11-12 | 2016年、英国の旅
今までは旅日記を時系列に沿って書いてきましたが、
後半に行くにつれてだんだん記憶が薄れてしまうので、
今回からは記憶が鮮明なうちに舞台について先に記しておきたいと思います。
(この記事はあらすじについて触れています。)


◼︎10月26日(水)・10月30日(日)◼︎


今年(2016年)4月に、マーク・ゲイティスとプライベートのパートナーであるイアン・ハラードが共演する舞台
"The Boys in the Band"が上演されると発表されました。


2人は今までテレビやラジオ/オーディオドラマでは共演したことがありましたが、舞台での共演は初めて。
もともとはイアンが企画を温めていましたが、そこに忙しい中でちょうど予定が空いていたマークが参加することになったとか。
マークの活躍はご存知の通りですが、イアンもオフ・ウエストエンドを中心に舞台での活躍を続けています。
それぞれ仕事で遠出することが多かった2人は、久しぶりに一緒にいる時間が増えて喜んでいるようです。


Mark Gatiss - The Boys in the Band by Mart Crowley at London Pride

↑2016年のロンドンプライドで"The Boys in the Band"の告知をするイアンとマーク


この2人を中心に、BBCの長寿番組「イーストエンダーズ」で知られるジャック・ダージズや、
ミランダ・ハート主演のシットコム"Miranda"で知られるジェームズ・ホームズ、
ミュージカル「アベニューQ」のダニエル・ボーイズら、7人の男性俳優が脇を固めます。



そもそもこの"The Boys in the Band"とはどういう作品なのか?
"The Boys in the Band"は1968年にニューヨークで初演された舞台で、
1970年には映画化もされています。(邦題は「真夜中のパーティー」)

この1960年代末というのは、NYのゲイコミュニティーに変革をもたらした
「ストーンウォールの反乱」という同性愛者による史上最大級の暴動が起こった時代でもあります。

当時は同性愛者であることで勤務先を解雇されても違法性はないとされ、
同性間の性交渉を禁止する「ソドミー法」が通用していた時代。
公の場所でキスや手を握っただけでも拘束の理由とされていました。
(実際、この芝居の中でもジェームズ・ホームズ演じるエモリーが
 警察が乗り込んでくるふりをして登場したりします。)

「ストーンウォールの反乱」はそんな虐げられていた同性愛者たちが
ゲイバー「ストーンウォール・イン」に踏み込んできた警察に対して初めて本格的に立ち向かった出来事だったのです。


そんな世の中の流れの中で登場したこの舞台は現在、
初めて真正面からゲイの登場人物を描いた作品として受け止められています。
今回のロンドンでの上演も20年ぶりとあって、
初日には作者のマート・クロウリーが駆けつける等、注目を集めていました。


Boys In The Band - Audience Reactions

↑デヴィッド・テナント、アンドリュー・スコット、グレアム・ノートンら著名人の感想コメントと、
 作者のマート・クロウリー、演出家のアダム・ペンフォード、出演陣のコメント。
 ハロルドの第二幕開始直後のシーンも見られます。


物語は、失業保険で贅沢に暮らすマイケル(イアン)のアパートで繰り広げられます。

舞台上に飾られているのは、映画好きのマイケルらしく、ハリウッドを彩ってきた女優たちのポートレート。
(上演が始まる時にこのポートレートがチカチカ光るようになっています。)
60年代らしいレトロなテーブルと椅子、玄関のそばにはレコードプレーヤーが置いてあります。

上手上部に2階の部屋に通じる階段があり、
下手には観客の出入口を兼ねる花道が伸びていて、その先がキッチンに繋がっている設定。
(花道の先には小道具を置く棚が設置されていました。)
アメリカなので、コンセントもイギリスのBFタイプではなくAタイプ。細かいですね。

芝居が始まるまでは、「ジミー・マック」や「ヒート・ウェーブ」等、
60年代のヒット曲が大音量で流れていました。



友人ハロルド(マーク)の誕生日をアパートで祝うために、
ボーイフレンドのドナルド(ダニエル・ボーイズ)と共に身支度をするマイケル。
そんな彼のところに、学生時代の友人である弁護士のアラン(ジョン・ホプキンス)から電話が掛かってきます。
マイケルは電話口で泣き出すアランのただならぬ様子に、
会いたいという彼の頼みを断りきれず、パーティーの間に会う約束をします。

彼はマイケルがゲイということを知りません。
マイケルは次々にやってくる友人たちを迎える中、
アランに自分たちがゲイだとバレないよう、態度に気をつけるように友人たちにいい含めますが、
結局アランから今日は訪問しないと連絡が入ります。
ホッとする一同。
ところが、マイケルが仲間とダンスを楽しむ中、突然、来ないはずだったアランが現れます…



マイケルの言いつけ通り、アランをもてなす友人たち。
ただ、友人の一人であるエモリー(ジェームズ・ホームズ)は、
いわゆるオネエ言葉で喋り続け、堅物なアランの反感を買います。
そしてついには妻との関係を揶揄されたアランが激怒し、エモリーに殴りかかる事態に。



「ホモめ!」などと罵倒し続けるアランと、鼻から流血し絶叫するエモリーを慌てて引き離す友人たち。
阿鼻叫喚の乱闘の中、ブザーが鳴り、ついにパーティーの主役ハロルドが現れます。



エモリーからの「プレゼント」である男娼のカウボーイ(ジャック・ダージズ)から熱いキスを受け取り、
サングラスをずり下げて彼の腕についたカードを読むと、高らかに笑い出すハロルド。
"Dear Harold, bang, bang, you're alive. But roll over and play dead. Happy birthday, Emory."
その後、音楽と共に暗転し、一幕が終わります。

第一幕は45分と短いので、幕間まであっという間です。
(つまりマークは第一幕でほとんど出てきません。)



ここまで読むと、とてもシリアスな芝居に読み取れると思いますし、
映画化された「真夜中のパーティー」を見ると、当然笑い声は入っていないので、
真面目なドラマのようにも思えるのですが、
実際の舞台では、客席が揺れると思えるほどに観客がドッカンドッカン笑います!!

ハロルドの遅刻の理由について、エモリーがアランの眼の前で
「『彼女』は病んでる『レディー』なのよ!」と言ったり、
アランが2階から降りてくるのを見て「ヤバイ、名士の『尼さん』が来たわ!」などという度に笑いが起こります。
エモリーの言ってやった!という満足げな顔に、私も笑いを堪えられませんでした。

アランとエモリーの取っ組み合いからハロルドが登場するまでも皆手を叩いて大盛り上がり。
まさかこんなに笑ってしまう舞台だったとは!
その大爆笑の中、マーク演じるハロルドが登場すると「待ってました!」とばかりにさらに歓声が起こります。


↑今回の舞台制作で一番予算が掛かったという、ハロルドのかつらw


続いて第二幕では、エモリーとアランの乱闘を見て動揺し、
しばらく絶っていた酒を飲み始めたマイケルの態度が一変。
友人たちを相手に暴言を吐いたり、
主賓のハロルドの食生活や、肌の手入れ、薬に頼った生活をキツく批判し始めます。

しばらくは黙って攻撃をいなしていたハロルド。
しかしマイケルのあまりに不遜な態度に、ディナーのラザニアの皿にフォークをカタリと置いて反撃します。
「全部私が金を払ってるんだよ。薬も!コスメも!バスルームも!」

どうも彼らには、親友と呼ぶだけでは説明しきれない因縁深い過去があるようですが、
物語の中ではそれははっきり語られません。



さらに、マイケルは気分を害して帰ろうとするアランを引き止め、
友人たちにゲームをしようと提案します。
そのゲームとは、今まで自分が愛した人物に電話をかけて「愛している」ということが出来るか試すもの。

電話をかけたら1ポイント、
相手が出たら2ポイント、
名前を名乗れたら2ポイント、
そして「愛してる」と言えたら5ポイント。


マイケルはエモリーら友人たちに電話をかけさせた後、
アランに、同じ学生時代の友人であるジャスティンに電話しろと命令します。
アランが「隠れゲイ」で、ジャスティンと関係を持っていたと疑っているからです。
彼はただの良い友人で、自分はゲイではないと否定するアランに、
マイケルはそれでも強制的に電話をかけさせます。

震える指で電話をかけ、繋がった相手に、なんとか「愛してる」と伝えるアラン。
それを見たマイケルは「聞いたか、ジャスティン!」と得意げに電話をひったくりますが、
アランがかけた相手は、ジャスティンではなく、実は彼の妻だったのです。

←(稽古場でマイケルを演じるイアン)

アランは妻との諍いをきっかけにマイケルを訪れ、
彼に助けを求めるつもりでアパートに立ち寄ったのでした。
受話器を再び受け取ると、彼は妻と和解した後、電話を切り、
マイケルへ静かに礼を言って、部屋を出て行くのでした。

自分がしでかした事の大きさに気づき、愕然とするマイケル。

「今度は私の番」

最後に、ハロルドがマイケルに対してとどめのセリフを言い放ちます。

「あんたは哀れな男。あんたはゲイで、そうなりたくない。
 でもね、自分を変えることなんて出来ないよ」
「いつかヘテロセクシャルの生活を知ることが出来るかもしれない。
 情熱を持って、ありったけ望めばね。
 それでもあんたはずっとゲイなのよ。
 いつまでもだよ、マイケル
 あんたが死ぬ時まで」


そして振り返ると、微笑んで両手を広げて言うのでした。
「みんな、素敵なパーティーと素晴らしいプレゼントをどうもありがとう!」


↑(稽古場でハロルドを演じるマーク)

カウボーイを連れたハロルドが部屋を出て行くと、ついにマイケルは泣き崩れます。

「ドナルド! ドナルド! ああ… 僕はなんてことをしたんだ!
 また不安が始まった! 分かるんだ、また始まろうとしてる!
 置いてかないで! お願いだ! 僕にはどうすることも出来ない!」


ボーイフレンドのドナルドは、座って泣きじゃくるマイケルをしっかりと抱きしめるのでした。

Sherlock actor Mark Gatiss and Ian Hallard on Boys in the Band

↑チャンネル4で放送された、マークとイアンのインタビュー。ここで第二幕の場面も少し見られます。


ゲームが始まるまでは、大いに笑っていた観客も、
アランとマイケルのやり取りや、ゲームで電話のダイヤルをする最中、
そして打ち拉がれるマイケルの姿を、息を呑んで見守っていました。

敬虔なクリスチャンとして、自分がゲイであることを認めるのは、マイケルにとって難しいことなのでしょう。
マイケルは、ゲイである自分を責める代わりに、ハロルドやアランたちに辛く当たっていたのかもしれません。
そして同じく自分を「醜いあばた顔でユダヤ人のオカマ」と名乗る自嘲的なハロルドは、
同類で長年の付き合いである彼の弱さを見抜いているのです。

これはマークがインタビューでも触れていた事でもあるのですが、
ハロルドは最後、「明日電話するから」とマイケルに言い残して部屋を去ります。
つまり、このパーティーの惨劇で彼らの友情が終わる事はないのでしょうが、
今までも、そしてこれからもこんな自己嫌悪のゲームが続いていく事を意味しているのです。
マークはこれを「人々が捕らえられた恐ろしいゲーム。繰り返ししでかす地獄のゲームみたいなもの」と表現しています。

思うにこれは、同性愛者であるかどうかということだけでなく、
自分を認められるかどうかという、誰しもが抱える問題を、ほんの1日の出来事として描いた物語なのです。



ところで。"The Boys in the Band"が上演されたPark Theatreは、
The Stageの"Fringe Theatre of the Year Award 2015"を受賞した評価の高い劇場です。
今まで私が訪れたことのある劇場では、ドンマー・ウェアハウスに形態が似ていますが、
2階席Circleの列が2列なので、1階席から見ると天井が広く、圧迫感を感じません。

劇場の1、2階両方にバーがあるので、中も外もとても賑やか。
(お酒だけでなく、ハーブティーなどノンアルコールの飲み物もあります。)
今回の芝居は、初めて正面からゲイを扱った伝説的舞台ということもあり、
仲の良さそうな男性カップルがあちこちに見られました。
一緒に見に来られて羨ましいですね…(←一人で観劇した人)



私は初見がStallの最前列、2回目が2列目で観劇したのですが、
舞台から役者に手が届くほど席が近いので、
ハロルドが燻らすマリファナ(本物ではないでしょうが)の煙が鼻先まで漂ってきました。

男娼のカウボーイも、ハロルドに薦められてマリファナを吸い始め、
すっかりいい気分になったのか、床に寝転んだり、
ワインの瓶を物色してハロルドのグラスになみなみと注いだり、
他の登場人物が話している間も、ウロウロ歩きまわったりして気になって仕方ありません(笑)。
動きだけじゃなく、見事な上半身の肉体美も目が離せませんでした!
映画と同様、おバカだけど憎めないキャラクターです、

バーナード(グレッグ・ロケット)の香水のいい匂いも嗅ぐことができました(笑)。
彼は想像してたより無邪気でとてもチャーミングでしたね。
エモリーは酔いつぶれた彼をケアしたり、ハロルドのために手作りラザニアを持参したり、
お騒がせなお嬢さんではありますが、面倒見のいいところもあります。
ジェームズ・ホームズは期待通りのはじけた演じっぷりでした。

エモリーと喧嘩になったアランは、後半では彼にしたことを魅力的な低音ヴォイスで詫びます。
最後のゲームの場面では、イアンのマイケル以上に熱のこもった演技で、説得力のあるアラン像だったと思います。

彼らの他に、ラリー(ベン・マンスフィールド)とハンク(ネイサン・ノーラン)というカップルが登場するのですが、
フォトグラファーのラリーは遊び人で、ハンクは数学教師というタイプの違う二人。
ラリーは実はドナルドと面識(つまり一夜の関係)があります。
2階でアランとマイケルが話している間、1階でこの2人で会話をしている演出が
映画の方ではそれほど分かりやすく映されてなかったので、印象に残っています。
それにやきもきするハンクは、実際には「堅物な教師」というよりも「地味な優男」という感じで好感が持てましたね。
ラリーとハンクの最後の愛の告白は素直に胸を打たれます。

でも私の一番のお気に入りはドナルドです!
お茶目で頼り甲斐のあるドナルドにマイケルがすがりたくなる気持ちがよくわかります。
ダニエル・ボーイズの演技もとても自然で優しさ溢れていて、
冒頭と最後に安らぎを与えてくれます。
(ちなみにダニエルもカミングアウトしているゲイです。)


"The Boys in the Band"は、まさに、それぞれが適したポジションで見せ場を作るチームプレーで出来ています。
何より、中心となるマイケル、ハロルド、エモリーのキャスティングがぴったりで、
映画化されたキャストからのイメージからも逸脱せず、ハマっていることが魅力です。

マイケルの誠実さゆえの苦悩をイアンがまっすぐに演じ、
ハロルドの優雅さ、謎めいた雰囲気をマークがいつも通り(笑)演じる安心感。
両足を揃えて、右手はスッとジャケットのポケットに差し込み、
左手の指先で軽くマリファナをつまむ仕草は、
マークが作り出したハロルド像として目に焼き付いてます。

舞台を見るまでは、戯曲や映画を見ながら、
自己嫌悪しがちな人間として、二幕のマイケルの愕然とした様子に心から同情したり、
自虐的で皮肉屋なハロルドの言動に魅了されたりしていたのですが、
先ほども書いたように、これほど笑えて楽しい舞台だとは正直思っていませんでした。

Park Theatreのような熱気のある小屋で、観客の一人として大いに笑い、
文字通り間近にこの舞台を感じることが出来て、
忘れがたい思い出にも、得難い経験にもなりました。

The Boys in the Band - Photoshoot behind the scenes


"The Boys in the Band"はロンドンの公演の後、
マンチェスター、ブライトン、リーズと地方公演を廻っています。

舞台情報サイトのWhatsOnStageの情報によると、
2017年にはウエストエンドにも進出するとか…。
ロンドンに行く機会がある方には是非オススメしますよ!



それでは、上演後にマークやイアンと会ったことについてはまた近いうちに。

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