ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

独立外交官

2015-04-08 14:58:09 | 徒然の記

 カーン・ロス氏著「独立外交官」(平成21年 英治出版刊)を、読み終えた。

 氏は元英国外交官で、国連安保理のイギリス代表部に、中東問題の専門家、一等書記官として4年間を努めたキャリアだった。ブッシュ大統領が行った「イラク戦争」に、英国代表として深くかかわり、この結果、国連と祖国に失望し、退職したという変わった官僚だ。

 本人も認めているが、この本の出版自体が、守秘義務違反となり、英国政府から圧力が加えられたとのこと。知らない事実を教えられた点には、感謝せずにおれないが、英国の政府役人としては、残念ながら失格者だろう。

 先ず国連という組織につき、明確に知らされたことに、謝意を表する。国連で最高の位置づけにあるのは、安全保障理事会だが、構成する5大国が、どのように振る舞っているかなど、氏の叙述で明らかになった。

 常任理事国が米・英とロ・中・仏の二つのグループに分かれ、常に牽制し合っているなど、推測はしていたが、ここまでハッキリしているとは意外だった。ましてフランスが、ロシアや中国と緊密な立場にいて、米英に対抗しているとは知らなかった。

 ここで実力を発揮しているのは、政治家ばかりでなく、実務家である外交官、つまり官僚である。彼らのもとにあらゆる情報が集まり、それを分析し簡潔な報告書にまとめ、決断する政治家へ渡す。必要とあれば彼らは、自分に有利な情報だけを集め、政治家へ届けたりする。

 何てことはない、日本の国会と同じで、無能な大臣たちが、官僚の作った答弁書を読み、野党の質問に答える図式だ。優秀な役人は、世界のどこの国でもそうなる、という話だろう。

 国連では、常任理事国が世界情勢への対応を決め、他の国などは、彼らの眼中にない。
5大国間の駆け引きが密室協議で行われ、紛争国への介入や不介入、軍事力の行使など、世界のすべての重要案件が決定される。非常任理事国や、他の国が本会議に同席していても、5大国に相手にされることはない。協議の対象となっている、紛争当事国の参加もなく、議論は5大国の国益に添って進められて行く。

 2012年から2015年までの、国連分担金の推移を調べてみたことがあるが、日本は米国の22%に次ぎ、10.8%とという第二の負担率だった。英・仏・中などは、日本の半分の5%であり、ロシアときたら2%で、日本の5分の1でしかない。ドイツだって7%なのだから、日本がいかに断トツの負担をしているのか、それでいて、何の評価もされていないことが、氏の本でよく理解できた。

 本には書かれていないが、分担金の支払は、アメリカを筆頭に遅延しており、ほとんどの国が延滞金を抱え、国連の赤字に貢献している。日本だけが、律儀に毎年キチンと支払い、しかも何の敬意も払われていないというのだから、呆れてしまう国連の実態でないか。

 283ページの本の中で、「日本」という文字を目にしたのは、たった二三度しかない。国名が書かれていただけで、本の中身として取り上げられた箇所は、ひとつもない。5大国とは言うまでもなく、先の大戦での戦勝国であり、彼らが大手を振っているのが国連だということだ。中国は韓国と手を取り合い、慰安婦問題を国連で喧伝しているが、この本を読めば、黙認しているアメリカも、戦勝国の立場を崩していないのだと理解できる。

 いくら日本が歯ぎしりしても、中国は常任理事国クラブの正規メンバーであり、米・英・仏・ロと、幾らでも意思疎通できる立場にある。ここでは、戦後体制がそのまま生きており、敗戦国の日本やドイツは日陰者扱いで、最貧国になったイタリアは、語られることもないらしい。

 こんな国連を有り難がり、そこに日本の軍隊を提供するなどと言った、小沢氏の戯言を改めて思い出す。日本で剛腕政治家と言われた人物が、この程度のものかと情けなくなる。

 有権者が、選挙で政府を牽制するという民主主義が、国家単位では生きているが、国際問題(国際社会)は、民主主義がないと氏が言うのは、この硬直した国連の組織体制と、風土を指している。官僚言葉で「グローバル化」などと曖昧に言わず、「世界の文化の均質化」、「資本市場の開放」、「労働力の流動化」などと、問題を具体的にして議論すべきだと、彼が提案する。

 政治家たちが、なぜ具体的に語らないのかと言えば、「グローバル化」とは、国家や領土や民族までも超越した、地球世界へとつながっていく概念だからだ。国毎の歴史や伝統を大切にする国民が、大多数を占めている現在において、ハッキリ言いすぎると邪魔されるため、曖昧にして進めているのが「グローバル化」なのだ。

 今でも、これからでも、一部の大富豪が、世界の富を独占してしまうような「グローバル化」に、私は到底賛成できない。職業外交官として、こうした正論を表明した彼は、きっと勇気のある人物なのだろう。

 5大国がせめぎあっている「国益」についても、彼は明確に定義してみせる。
「イギリス外務省では、われわれの "国益" は、三つの要素からなるということを、」「無意識下に吹き込まれる。」「貿易、安全保障、そしてなぜか 、"価値観"と呼ばれるものだ。」

 「自国の政策が、同じような用語でなされた、分析にもとづいているという、」「他国の外交官にも、大勢会ったことがある。 」

 「イギリス外務省では、国益をはじき出す方法は、入門研修で教えられるわけではなかったが、」「その後に読む、膨大な文書から、それが読み取れる。」「国益を決めるプロセスは、根拠も正当性もない、恣意的なものだ。」

 「個別の事例について、閣僚が、イギリスの "国益とはなにか" を問うたり述べたりすることは、極めて稀だ。」「それは、すでに前提となっているからだ。」

 「国益の混沌とした集合を、三つの下位集合の、貿易、安全保障、価値観に、」「分けることさえ、厳密にはなされていない。」「外交部門の主観性、恣意性はあまりに高いので、」「国益を、このように定義することさえ、反論を呼ぶ可能性が高い。」

 長い引用になったが、こうした明確な叙述が、守秘義務違反に問われる、範疇だと思われる。

 貿易とは、分かり易く言えば経済(金儲け)のことであり、安全保障とは、武力を土台にしたソフト・ハードの軍事の総体を指し、価値観とは、彼らがアジア諸国等を攻め立てる時に使う概念だ。つまり「自由」「民主主義」「人権」「寛容」などと、自国の優れた価値観と称する、抽象的観念としての責め具である。

 抽象的言葉の武器は実体が曖昧で、聞く者がどうにでも解釈できるだけに、プロパガンダとして使われると、とても厄介だ。目標とされた国が、複数の国から一斉にやられると、国際社会では太刀打ちできない。「大量破壊兵器を隠している。」とか、「彼の独裁が、民主主義を育てなくしている。」とか、「国民の人権をないがしろにしている。」とか言って攻撃され、イラクのフセインが消えてしまった、一因にもなっている。

 中国や韓国が「正しい歴史認識」とか、「慰安婦の人権」などと、捏造と誇張のウソで大騒ぎし、国際社会で、執拗に日本を攻め立てているのは、こんな常任理事国の得手勝手を真似ているに過ぎないと、この本が教えてくれた。

 だから共産党や社民党、民主党など、反日・売国の野党は、こうした外国勢力と結びつき、日本を破滅させようとしているのだと、この本を読めば、馬鹿でもない限り理解できてくる。(この本を読まない人は、馬鹿でなくとも理解できない。)

 こうして氏の本に添い、思うことを述べて行くと、明日までかかっても、終わらない気がして来た。それでは気力と体力が持ちそうもなく、疲れても来たから、中途半端になるがここいらで止めよう。

 昨日は暖かい日差しがあったのに、今日はなんと、4月の8日だというのに、朝から雪が降った。今はミゾレになっているが、しんしんと冷える。心も体も、冷たく凍えるこの天気こそが、本の読後を象徴している。

 有意義だが、心の温まらない一册だった。手元に置く気になれないので、申し訳ないが有価物回収の日のゴミにするとしよう。

 どうしてこの本の表題が、「独立外交官」なのか、あるいは「グローバル化官僚」である氏に対する、私の思いとか、書き足りないことは多々あるが。どうせ、楽しい話ではないし、誰が賛成してくれるわけでもなし、そろそろ空腹にもなって来た。

 中途半端に、何かを放棄するなど、これまで自分の習慣にはなかった。しかし素直になろう。

 「年相応にやればいい。」「お前はもう、若くない。」・・と、こういうことか。

コメント
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