田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

黙祷

2007-08-11 01:36:19 | Weblog
8月10日 金曜日 晴れ
●絹を裂くような悲鳴だ。
階下の中道のあたりだ。いまではすっかりこのカミサンの悲鳴にも慣れている。初めて聞いた時にはおどろいたな。世界滅亡の日でも間近にせまっているのか。はたまた、恐竜でもわが家に侵入してきたのかと一瞬目の前が真っ暗になったものだった。
案にたがわず、ちいさなモグラがブラッキーの餌皿のわきで死んでいた。いつものように野鼠の子を獲物としてとってきたのかとおもったが、ちがっていた。くちが尖っている。前足が平べったい。小さいがモグラの形になっている。恐竜ならぬモグラやネズミの赤ちゃんをなんどポリ袋につめてきたことか。

●カミサンがあたふたと割り箸をもって庭に走り出た。
「ミミズが蟻におそわれているの。かわいそう。カワイソ」
蟻の群れが、よってたかってミミズを食糧とするためにおそっている。その食物連鎖の真っただ中に割り箸でわってはいり、ひょいとミミズをつまみあげる。濃厚な土の匂いのするじめじめした庭の隅にもどしてやる。
「さあ、穴にもぐっていなさい。あなたには、光の当るところは、そぐわないわ」
     
●魚を三枚に開けない。だいたい魚そのものを直視できない。魚の目に睨まれているようで怖いのだという。だから菜食主義者だ。徹頭徹尾、どこからみても、完全無欠のヴジタリアンだ。

●そんな彼女が生み育てた三人の子供たちがこのお盆には帰省してくる。また、なにかわが家の家族伝説に書き加えられるようなことが起きるだろう。

●終戦記念日がくる。わたしも、思い出の作品をブログに載せている。つくづく平和。どうみても平和。しみじみ平和。62年後の夏、子モグラに悲鳴を上げ、ミミズが蟻におそわれていると憐れむカミサンと、子供や孫と会えるのをたのしみにしている。この平和をもたらしてくれた今は亡きひとたちのために、黙祷。