田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女      麻屋与志夫

2008-04-16 22:47:31 | Weblog
4月16日 水曜日
吸血鬼/浜辺の少女 3 (小説)
 黒い瞳でみつめられて隼人はぶるっと身震いした。
 ああ……こんなにきれいな瞳をしている少女がいる。
 きみは……と少女に呼びかけることがはばかられた。
 とても少女とは思えない。大人っぽく感じられた。
 黒い瞳が隼人の影をうつしていた。じっと恥ずかしいほど隼人を見ている。隼人はぐっと少女をだきしめたかった。
 世界はこのとき反転した。
 とても、現実には起こるはずのないことを体感しているのに、隼人は素直にそれをうけいれていた。起こるはずのないことが、起こっているのだ。
 隼人はこのとき恋をした。これからはいつもこの少女のそばにいたい。
 隼人はこのとき選ばれた。これからはふたりで時の流れを渡っていく。
「この街もずいぶんかわったこと……。あんなところにホテルなんか建てたりして」
 少女は視線を川向こうにむけた。隼人はまだ少女にあつい視線をむけている。
停車場坂の麓。府中橋を渡ると、白亜の壁面に残照をあびて朱にそまった建物がある。
  白鷺が茜色の空にまっている。なにも観光資源のない貧しい街だ。白鷺は市民に感激をもって歓迎されている。マスコミの話題になってくれことを望んでいる。
「白鷺がくるようになったのね。静かな街ですものね」
河畔に在るのでリバサイドホテル。
「ついていらっしゃい。だれかに見られているようだわ……何が起きても、ついてくる勇気はあるはね?」
 隼人もチクチクするような視線を感じた。
 悪意にみちた、刺すような視線だ。
 額に突きがくる。
 面をうたれるような気だ。こげくさい。きけんだ。無言で少女の後を追った。たしかにふたりを注視しているものがいる。