田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女         麻屋与志夫

2008-04-20 23:22:09 | Weblog
4月19日 日曜日
吸血鬼/浜辺の少女 11 (小説)
廃屋といってもいい。長引く不況でがらんとした倉庫。バイクごと逃げ込んだ。
 何人かはルノーを追いかけていった。
 この倉庫は高野のたばねる<バンパイァ>の巣窟となっている。
 おれは、どうやらほんもののバンパイァになっていく。こんなことがおこるなんて信じられなかった。だいいち、この世にバンパイァが存在するなんて信じているものはいないだろう。
 のどが渇く。渇く。ひりひりする。これで血を吸えば、おれはバンパイァになる。ケントたちにはなにもいっていない。仲間はなにもしらない。気づいていない。
 めまいがふたたびおそってきた。
「いままでドジったことはなかった」
 サブのケントがいう。
「女のほうが、おかしい。ときどき体がうくようにみえた。浅田真央がジャンプしているようだった。四回転くらいしていたよな」
「イイ女だった。おれの女にしたかった」
 ケントがワイセツに腰をシコシコと前後にゆする。
 おちこんでいる高野はだまりこむ。おれの剣をかわしやがった。さすがだ。噂どおりの男。皐隼人。こんどは逃がさない。シトメテやる。憎悪の炎がめらめらともえあがった。
 また鼻血が垂れる。舌でなめる。うまい。田村がにやにやしながら高野を眺めている。鬼島が田村を目でうながす。田村が寄っていく。
「このままでは帰れないな」
「でも、どうしてラミヤ姫があらわれたのだ」
「予想もしなかったことだ。鹿人さまに、処刑されるぞ」
「やだよ。そんなの」
 田村がおびえる。
「灰にされるかもな」
「おどかすなよ」
 想定外のことが起きている。指令どおりにことをはこべなければ、粛清されてもしかたない。
 高野の携帯がなった。
「おれだ」
 ルノーを追いかけていった仲間からだった。
「高野さん。フジヤマの裾、五月カントリー倶楽部のあたりで見失いました」
「ようし。そこまでわかっていればじょうとうだ」
「そうか。姫の逃亡先がわかったか」
 鬼島が機嫌をなおした。
「そうか。フジヤマの周辺にまちがいないな」
 倉庫の裏口に高野の姿があらわれた。後ろ手に扉をそっと閉める。小さなカタッという音がした。
 チームのものは、11時まで営業時間を延長したヨーカ堂で50%引きの弁当やドリンクをかってきた。勝沼産の赤ワインを高野も飲んだ。
 ラミヤの所在がわかったので鬼島が万札を何枚もヒラリとおいていった。
 高野はまた血をなめた。もう鼻血はかたまってしまった。なにかものたりない。もっと血をすすってみたい。赤ワインを飲んだ。これが血だったら、もっとうまいはずだ。これが血だったらと思っただけで体かふるえてきた。
 たまらず倉庫をそっとぬけだした。
 ヨーカ堂の駐車場を若い女があるいていく。両手に不透明なレジ袋をさげている。


吸血鬼/浜辺の少女        麻屋与志夫

2008-04-20 08:23:21 | Weblog
4月20日 日曜日
吸血鬼/浜辺の少女 10 (小説)
 建物全体がゆらいでいる。倉庫の中の薄暗い空間がゆがむ。なにかおかしい。高野はめまいがした。なぐられたからではない。なぐられたのは顔面だ。脳しんとうをおこしたわけではない。
 渇いている。水を飲んでも。カナディアンドライでも。ビールでもこの渇きは癒されない。喉が渇いている。ひりひりとまるでアリが喉の粘膜の水気を吸いとりながら這いまわっているようだ。
男だけの暴走族<バンパイァ>だ。倉庫のすみで立ちしょんするものがいる。だれもとがめない。汗とガソリンと尿のいりまじった臭いが強烈だ。それでもここは、頼りになる場所だ。ほかの族にはこのアジトは気づかれていない。この邪悪な秘密基地はおれたちだけのものだ。いちばん安心していられる場所だ。
飲み食いは、ヨーカ堂がすぐそこだ。なんでもそろっている。なんでも飲める。それなのにこの渇きはどうしたことだ。飢餓感。なにかがたりないという感じだ。
族だからアウトロウだ。ほかの若者とはちがう。普通ではない。ところが、ほかの族仲間ともどこかちがってきた。族のライダーたちも薄気味悪がっている。かわったのは、頭の高野だ。
 あの日からへんになったのだ。感覚が異常だ。毎日すこしずつおかしくなっていく。高野は鬼島に噛まれた。……なにかおかしい。首筋から血を吸われた。もともと<バンパイァ>なんて名乗っている族だ。でもほんとうに吸血鬼がいるなんて、だれも信じてはいない。
 おれはほんものの吸血鬼に噛まれたのか。噛まれた。高野は宇都宮のオリオン通りを歩いていた。通りのはずれのマンションでは拳銃男が立てこもっている。警官とプレス関係者が街あふれていた。とてもワルサなどしていられない。暗闇から手がのびてきた。路地の奥に引きずりこまれた。ふいに噛まれた。さからう間もなかった。
 いま目の前にいる。鬼島に噛まれた。あのときからおれはかわった。「ナンスんだよ。鬼島さん」ケントがわめいている。
「ケント。そこまでだ」
「だってよ。キャップをなぐることはナイスヨ」
 鼻血がでた。高野はそれを舌でなめた。ぞくっとした。ねとりとして塩気があった。汗と血の味。ウマイ。ゆらいでいる。ゆらいでいるのは高野の体だ。