田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女

2008-04-18 16:57:57 | Weblog
4月18日 金曜日
吸血鬼/浜辺の少女 7 (小説)
「ああ、故郷にかえってきたわ」
 夏子がため息をもらす。清楚な横顔だ。
「ここは退きましょう。ホテルにでも泊まってヨーロッパの思いで話しをしてあげたかったのに。……それからこの川がまだ黒く濁っていたころのことを。いやな介入者がいたのでは危険よね」
 ホテルに泊まってといわれて隼人はうれしかった。まだ会ったばかりなのに。ながいことつきあってきたように感じていた。
「またおそってくることは、ないですか」
「それはないと思う。あのれんちゅうには、わたしは倒せないとわかったはずよ」
「刺客をさけるために、うちの道場にいこう」
「ありがとう。でも家があるの。あす訪ねてきて」
 ヨーカ堂の駐車場に隼人はルノーを留めてある。
 ならんで歩いていた。恋人どうしの散歩に見える。
 隼人には疑問がのこった。夏子の帰還をなぜ彼らが知ったのか。
「わたしにもわからない」
 それが夏子の応えだった。心をよまれていた。
 まだ薄明るい。暮れなずむ黄昏時の街に街灯がともった。それをまるで待ってでもいたようだ。さきほど隼人が胸をときめかせながら夏子においすがったあたりでふいにバイクの音がひびいた。ドロドツトンドドドとなりひびくエンジン音。まちがいない。ハーレーダヴィッドソン1200ccの轟音だ。ハーレーを先頭に停車場坂を暴走族の一団が下ってくる。
「くるわ。あきらめなかった。しっこいのね」
 車止めの細いポールを隼人はひきぬいた。鎖がついていた。それをぐるっと手首にまきつけた。汗ですべるのをふせげる。
 夏子と隼人は走りだしていた。駐車場までいますこしだ。トラブルは避けたい。追いつかれた。バイクに囲まれた。郷土資料館の裏に宵闇が青くよどんでいる。
 バイクが迫ってくる。
 轟音をあげて隼人に迫る。
 ぶちあたってきて、はねとばす気だ。
 隼人は全身が凍るような恐怖を感じた。おそろしいのはもちろんだが、怒りもあった。体が小刻みにふるえている。すぐに追いつかれた。バイクが迫る。身をかわした。
 ポールをライダーに叩きつけた。
 男はふっとぶ。バイクだけが独走していく。
 つぎのバイクがきた。
 跳躍してやりすごす。
 普通ではかんかんがえられない。高く飛んだ。
 夏子も飛翔していた。
 ふたりは空中で手をとりあった。おどろいたことに、横に滑空した。
 夏子だけなら滞空時間はもっと長かったのだろう。隼人が重荷になった。
 着地点に田村と鬼島がいた。
「あれですむと思ったのですか。ラミヤ姫」
「あなたたちでは、わたしは倒せないわ」
 隼人が夏子をかばう。
「おや、男のうしろにかくれるのですか。かわいい」
 鬼島と田村が声を重ねてからかう。
 にたにた笑っている。夏子を冷やかしてたのしんでいる。
 囲まれてしまった。バイクを停めて族の男たちがふたりを取り囲んだ。
 ほかの族の集団とはどこかちがう。びみょうにズレがある。薄気味の悪いライダーだ。
 十重二十重とはいわない。が、14,5人はいる。
 手に鉄パイプやチェーンをたずさえている。けんかなれしている。
 とくに、ハーレーをころがしている頭は、残酷なおぞましい顔だ。
 いっせいに、おそいかかってきた。


吸血鬼/浜辺の少女

2008-04-18 03:08:22 | Weblog
4月18日 金曜日
吸血鬼/浜辺の少女 6 (小説)
 鬼島がアロハ男に呼びかけた。参戦するように叫びかけられた。田村は動かない。
 鬼島はナイフを両手ですばやくさばく。交互にもちかえる。フェイントをかける。夏子がひく。さらに後にすさる。ナイフの動きを見極めようとしている。鬼島は切りつけるのがむずかしい。困難と悟る。夏子の動きは敏速だ。鬼島はナイフを夏子の胸になげようとしている。
「銀のナイフでもわたしは傷つけられないわよ」
 夏子のあまりの冷静さに、隼人は不安になる。
「夏子さん」
「夏子でいいわよ」
 斜陽の最後の光矢が彼女の顔を照らした。
 そして薄闇に反転した。攻撃する鬼島も、夏子もこの一瞬を逃さなかった。
 シュッとナイフが風を切る。夏子は巨大な蝙蝠翼に体をたくす。ナイフは空をなぐ。夏子は中空をとぶ。ばさっとはばたきすら聞こえてきた。夏子は水槽タンクの上にいた。
「そこから隼人見ていて。わたしの動きがみえるようになってね。わたしのことなら、心配ないのよ。わすれたの? わたしは死ねない女なのだから……」
 夏子の動きは煙っているようだ。見えない。吸血鬼ムーヴイング。凄まじい速度で移動する。小さな颶風のようだ。鬼島が夏子のまわしげりでふっとんだ。
「田村」
 アロハ男がしぶしぶ拳銃を夏子にむける。
「姫。無粋なモノでゆるしてください」
「無粋と承知ならやめたら」
 拳銃で威しながらナイフをひろいあげる。
 屋上に常夜灯がともった。
 アロハ男がナイフで夏子の首筋にななめに切りつける。
 夏子はとびのく。
 夏子の髪がたなびく。その先端の髪が切られた。
 夏子の苦鳴が隼人の胸にひびく。
 夏子を助けなければ。やうやく、隼人は動けるようになった。田村の手にあるナイフを隼人は足でけった。ナイフが中空にはねあがった。おちてきたナイフを受ける。田村の脇腹につきたてた。しかし、血はでない。緑の体液がかすかに滲んだ。
「レンフイルド。兄さんの従者たちも死なないのよ。ほうっておけばいい。すぐに再生するわ」
 ナイフを手にあえいでいる隼人のかけられたことばだ。
 ひとを刃物で刺して隼人は興奮していた。
 だが、かれらをひとといっていいのか。