田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女       麻屋与志夫

2008-04-19 19:03:28 | Weblog
4月19 土曜日
吸血鬼/浜辺の少女 9 (小説)
夏子は戦う相手が人間なので、気力がそがれている。
人を傷つけまいとしている。その配慮が災いしている。
隼人は高野の切っ先を背後にとんでかわした。なんど後ろに逃げたことだろう。
防具をつけての戦いで鍛え上げた剣の技だ。
避けることはできる。
退くことは可能だ。
だが打ち込めない。
気迫が不足している。真剣が月光に冷たく光っている。剣風あげて、ピュュと切りこんでくる。それだけでも恐ろしい。
これも修行。そう思うことで気力を奮い立たせる。真剣を敵にしている。負けるな。隼人。守るべき恋人がいるのだ。愛しい夏子が危ない。
心を静める。平常心がもどってきた。すると、臭気を知覚できた。
ガソリンの臭いがしていた。さきほど倒れたバイクからガソリンがもれているのだ。
隼人は100円ライターをとりだす。バイクに向かって投げた。
青い炎がふきあがる。さらにとびすさって夏子に追いすがる。
炎はタンク部分にはいあがる。爆炎がとどろく。バイクのライダーが叫んでいる。両腕をあげて「チクショウ」とわめいている。よほど高価なバイクなのだろう。バイトをしてやっとかった自慢のバイクなのだろう。
「逃げるのかよ」
 高野が追いすがってくる。
 バイクが爆発した。爆風で倒れたものがいる。
 激しすぎる爆風におどろきながら、「夏子。車まで走れ」と叫ぶ。
 バイクから高く炎があがっている。
 類焼をさけるためライダーがバイクに飛び乗る。炎のなかから走り出る。
 バイクをおしているライダーもいる。エンジンをかける間も惜しんだのだ。
 隼人はルノーにたどりつく。エンジンはかかった。スタートさせる。
 消防車のサイレンがけたたましくひびく。あの爆発だ。あの炎だ。付近住民が119
連絡したのだ。

4

最後尾のライダーが倉庫に逃げ込む。
重い扉を閉ざした。ここに隠れていれば、見つかる心配はない。
外には消防車がきている。サイレンや放水の音に混じって、人声がする。
「なんてざまだ。逃げられるとは」
 セッナ。鬼島が高野にストレートをあびせる。グシュと鬼島の拳が高野の顔を打つ。
 グギャ。
高野はまさかなぐられるとは思ってもいなかった。さけられなかった。パンチはもろに
高野の顔面にヒットした。
 血の霧が前面にわいた。
鼻血がドビート血飛沫をあげてとびちった。
暴走族のアタマだ。
 腕もたつ。
 短気なのですぐ、仕込み杖をぬく。
 その白刃でなんにんか切っている。
狂犬だ。その高野が鬼島にはさからえない。
「ナンスだよ。鬼島さん」
「いんだ。ケント。ドジったのはおれの責任だ」
 サブのケントが怒気をあらわにして、鬼島につめよる。
「いったいあんたらは、ナニサマのつもりだ。ここはおれたちのアジトだ。おれたち<バンパイャ>のタマリ場だ。高野さんはおれたちのアタマだ」

           
 


吸血鬼/浜辺の少女       麻屋与志夫

2008-04-19 15:03:12 | Weblog
4月19日 土曜日
吸血鬼/浜辺の少女 8 (小説)
「やれ! たたきころしてしまえ」
 夏子をただのか弱い女とおもっている。
 隼人をただのやわな学生だとみている。
 なにも知らされないまま召集をかけられた族だ。木刀でおそってきたものがいる。なかなかの太刀筋だ。でも、なんなくかわす。スピードがない。それでも、ピュッと風を切った。パイプが正面からくる。かわす。
チェーンがジャッと横から蛇のようにのたくっておそつてくる。かわしきれず、ポールでハッシとうけとめる。金属音をたててチェーンがポールにまきついた。ギギギギと金属のこすれるいやな音がした。
隼人は力まかせにぐいとポールをねじりながら引いた。男はチェーンを放さなかった。弧を描いて中空にとばされた。グニュと大地にクラッシュする。失神してしまった。
隼人は手首にまいたチェーンをほどいた。ポールを正眼にかまえる。息切れはしない。乱闘にもひるまない。なれてきたのだ。はじめてのケンカだ。戦いだ。守るだけでは不利だ。攻撃する。こちらから攻める。そんなことを思うゆとりができた。
正眼にかまえた隼人に族がドバドバといっせいにおそいかかる。槍のように長いパイプがクリダサレル。木刀が風を切る。ピュと耳元をかすめる。隼人はポールでうける。はじきかえす。こちらから攻撃するすきがない。
足を敵のポールがおそう。跳躍した。かかとでポールをうける。ダメージはない。着地とどうじに横に回転した。じぶんのポールを敵になげつけた。ひるむすきに、そいつのふところにとびこむ。木刀をうばう。
隼人の手に木刀がある。木刀をかまえる。自信がふつふつとわきあがる。
「あっ、こいつ皐道場の皐隼人だ」
 木刀の切っ先を地面におとす。独特のかまえに気づいたものがいた。族の猛者たちがざわついた。中学の剣道部からいまにいたるまで無敗。大学剣道での優勝。族のれんちゅうがうきあしだつ。
「かまわぬ、たたきつぶせ」
「道場剣法がどれほどのものか。みせてもらう」
 抜き身をさげて男がまえにでた。ハーレーのライダーだ。
「高野、たたき切ってやれ」
 田村と鬼島があおる。
 ハーレーのライダー、族を束ねている男は、高野伸二。
 隼人と高野がにらみあった。タイマンとなった。
 高野は月光に光る太刀を上段にかまえた。よほど自信があるのだ。
 相手を威圧する喧嘩剣法であった。
 相手をのんでかかる剣法であった。
 振り下ろすとみせて横にないできた。胴切りにきた。
 とても素人の太刀筋とは思えない。鋭い。速い。修羅場をなんどもくぐりぬけてきた。兇暴な切りこみに隼人はたじたじとなった。真剣と戦うのは、はじめてだ。さすがに怖い。
 恐怖が背筋を稲妻のようにはしった。
「きざむぞ。きざむぞ。あんたとはいちどはやってみたかった。うれしいね。うれしいね」
 声で隼人をなぶる。
 木刀で受ける隼人のほうが不利だ。真剣にたいする根源的な恐怖がある。かすっただけでも血がふく。痛みを感じる。深ければ命にかかわる。
 恐怖が筋肉の動きをにぶらせる。
 隼人は後方に退く。切られる不安と戦う。メンタルな面の弱さにいま隼人は苦渋する。死の恐怖を克服するのだ。死闘とはもじどおり死を賭して戦うことだ。
 ピュッと剣風が隼人の肩をおそう。
 夏子も、駐車場のほうに追いこまれている。
 その背後には元の倉庫群が暗くそそりたっている。
 あそこに追いつめられれば逃げ場がない。