田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼攻め込む  麻屋与志夫

2010-02-04 19:59:46 | Weblog
part4 吸血鬼攻め込む  栃木芙蓉高校文芸部

20

マナーモードにしておいた携帯が胸元で震えた。
繭からだった。
「ツクイクン」
「机です」
「どっちでもイイじゃん。パパラッチがたいへんだよ。歩いていて倒れたんだって」
「元気だったよな。焼ソバ二皿たべて」
「いま、下都賀病院に救急車ではこばれたの。彼ってわたしのところへ連絡よこしたんだ。わたしのこと頼りにしてるんだわね」
「それより症状は……。
「急にねつが出て、のどがカラカラにかわいてる。そんなこといってたよ」
「噛まれていたな」
Gがグラスになみなみと北秋田をつぐと一気にのみへほした。
「燗でよし。冷やでよし。旨い酒だ」
龍之介にはときがときだから噛んでよし。
ときこえてしまった。

「いくぞ」
「いくぞって……Gどこへ? 行く気なの」
「きまっているそのパパラッチの病室だ。
このままだと、新型インフルエンザとまちがいられてしまうからな」
Gのおもったとおりだった。
面会は出来ない。

「ちょっと、ここでお九さんと、まつててくれ」
玉藻と龍之介をのこして、Gは院長室に入っていった。
「なんだ、ツクイくんのほうがはやかったね」
「だから机なの。これからリュウとよべって」
「あらうれしいわね。彼氏みたい」
「おまえさ、気がおおすぎるんだよ。
繭が噛まれればよかったのだ」
「やだぁ。それつてほんとなの。
敬介、吸血鬼に噛まれていたの」
マズイ。
とおもったがもうおそい。
繭はぶるぶるふるえている。
「こわいよ。こわい」

このとき、龍之介は玉藻がはっと息を飲むのを背中に感じた。



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吸血鬼攻め込む  麻屋与志夫

2010-02-04 08:30:08 | Weblog
part4 吸血鬼攻め込む 栃木芙蓉高校文芸部


19

「翔ちゃん、知ってたんでしょう? 
翔ちゃんは、この栃木に監察官がくるの知っていたのよね」
「上田秋成の『青頭巾』にでてくる。
ここの大中寺の。
根な藤で有名な快庵禅師も。
強いてこじつければvampier inspector だったのだろうな」
「そのはなしなら知っている。
そうか、そうだよね。
そうかんがえればわかってきた」
「翔ちゃん。わたしの質問にもこたえて」
「監察官がじぶんから正体をあかすことがあるのだろうか」
「外来種の吸血鬼にはたやすく見破られるんだ。
それでみずから名乗りをあげたのだとおもうよ」
「そうかもしれないな」
「翔ちゃん!」
「予感はしていた」
「やっぱり……。
それでわたしのこと心配して、
栃木を終の棲家とするきで、
もどっててくれたのね」
なんだかGと玉藻さん。
ラブラブのアトモスフィアだ。
言葉がとぎれる。
部屋の中には墨の香りがしている。
なにかぼくなどの察知できないところで、事態がおおきく動きだしている。

「玉藻さんもGも、ジャガイモ焼きそばたべますか」
龍之介はテイクオフの発砲スチロールの器を卓上にならべる。
Gは硯を机の隅によせる。
「気がつきついでに、台所から龍之介『北秋田』の一升瓶もってきてくれ。グラスは三つだ」
「わたしが準備するわ。孫に酒をのませるなんて、素晴らしい教育ね」
玉藻がてばなしで絶賛する。



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