田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

文芸部の怪談/馬首の井戸4  麻屋与志夫

2010-02-21 07:35:00 | Weblog
part8 文芸部の怪談/馬首の井戸4 栃木芙蓉高校文芸部(小説)


38

小太郎は自刃を覚悟した。
ところが、愛馬が鎧の袖をくわえて離さない。
ジイッと小太郎を見ている。
亡き母のような優しい目をしていた。

「兄が、あなたのことを助けてくれなくて……許しておくれ。
信長に焼き打ちにあった比叡山の例もあるでしょう。
兄は必死でこの寺を守ろうとしているのです。
許してあげてください」

愛馬は小太郎の切腹を止めようとしている。
袖口をくわえてはなさない。
涙をこぼしているように見えた。
イモ畑にどかっと小太郎は坐した。
もう逃げられない。
馬が泣いている。
涙はほんとうだった。
おおきな目に涙をいっぱいにうかべている。
小次郎は心を鬼にした。
長いこと苦楽を共にしてきた、
愛する馬の首をはねた。
井戸になげこんだ。
井戸の底の深いところで、
くぐもった悲しい音がした。
そして小太郎は自害した。

それからというもの、
井戸からは馬の鳴き声がするようになった。
山門のまわりで、
馬の駆け巡るひづめの音が、
カッカッと鳴り響いた。

山門を叩く音が絶えなかった。

こわがって、
寺の僧も小僧も逃げ出した。
そのあまりの怪異な事件に恐れをなしたのだ。
こうして住職がひとりのこされた。

ある夏の夜。
大中寺は炎上してしまう。
焼け跡からは。
固く閉ざされた門扉の、
カンヌキにすがった、
住職の焼死体が見つかった。

「どう、怖い話でしょう」
部員が読み終わったパンフレットを机の上に置く。
部長の知美がみんなをみつめている。
だれもが怖い話を読み終わった後でほほを紅潮させていた。
「パソコンで検索したの。「新潟の怪談」にのっていたのよ。
そのお世話になったの。
みんなも、この土地の怖い話を収集して。
おねがいします。
市の観光課で……。
この栃木の街のミステリースポットを再開発することにきめたの。
そして、怪談の短編小説を募集するんだって。
文芸部として参加することにきめたの」
「賞金でるのですか」
怖い話よりも、現実的な由果がきいた。
「それは、もちろん。
だって「深大寺恋物語」だって賞金10マン円よ」
「イタダキ」
「わぁ。由果。書けるの?????」
繭がからかう。
「いま、書道ブームでしょう。
こんどは文芸部のブームがくるとおもうの。
そしてご当地「小説」がワタシ的には、
ばんばん書かれるようになるとおもうの。
わたしたちのナジンダ地名や商店名や、
言い伝えを読めるなんて楽しいもの。
そのブームの火付け役にわたしたちがなりましょうよ」


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